お昼時のオフィス街、とあるレストランに一人の女性が注文を終えていた。彼女の名は江灘絵里、出版社宣伝部のOLである。本来ならば彼女は何人かの友人とお昼を食べるのがいつもの事だったのだが、このところ友人達に相次いで恋人ができたのだ。今はおそらくラブラブな時でも過ごしているのであろう。唯一恋人のいない絵里はしかたなく一人で食事をしていたのである。
「ちょっといいかな?」
 絵里は声のした方を振り向いた。そこには同じ職場の芦原志郎が立っていた。
「あら、どうしたの。」
「いや、君があまりにも寂しそうにしてたもので。」
「それ、どういうこと?」
 絵里はナンパみたいなものだと直感的に感じた。
「まさか私が寂しいだろうからって簡単になびくとでも?」
 志郎は
「そんなわけないだろ。ほら、やっぱり同期だからいろいろと、さ。」
「どうだか。」
「あの、お客様。」
 突如ウェイトレスの声がした。
「早くお席についていただけますでしょうか?」

 結局、絵里は志郎と一緒に食事をすることになってしまった。
 そして会社への帰り道。
「……あのね。」
「はい?」
「一回一緒に食事しただけで彼氏面しないでくださいね。」
「じゃあ……また一緒に食事……。」
「そんなわけないでしょっ!」
 絵里はムキになって怒鳴った。
「あ、そんな一人で先急がなくっていいだろ。おーい。」
 絵里はさらに足を速めた。

「見たわよ、絵里。」
「何をよ、由梨。」
「お昼休みよ、お昼休み。」
 先程から絵里に話しかけているこの女性、名前は臼橋由梨といい絵里の同期である。
「ほら、志郎君と一緒に……。」
「あのね、あれは無理やり一緒に……。」
「ねえ、ねえ絵里〜。志郎君と一緒に食事したんだって?」
「利亜……だから違うって。」
 そう声をかけながら現われたのは同じく絵里の同期である野部利亜である。
 実はこの二人は今まで絵里と一緒に食事をしていたのだが最近恋人ができ、昼休みは毎日恋人との時を過ごしている二人でもある。
「本当、最近ツイてないな。二人からは置いてかれるし挙句の果てにワケわかんない男には言い寄られるし。」
「えーいいじゃない志郎君。利亜だってそう思うよね。」
「そうそう。いいんじゃない、志郎君。」
「あのね。……ちょっと待って。由梨はともかく利亜はなんで知ってんのよ。利亜達は確か会社の屋上で食べてたから見てないはずでしょ。」
「それがさあ……社内で言いふらしまくってるのがいるのよ。」
「!?だ、誰よそれ。」
「……あ、あいつよ。」
 と言いながら利亜は部屋の中に入ってきた男を指差した。  利亜の指した先には志郎が立っていた。

「おい、お前。」
 その日の夜、志郎は親友で人事部の秋戸賢とおでんの屋台で飲んでいた。
「どういうつもりなんです?あんな噂広めて。」
「あ、あれ?いや、ライバルは一人でも少ないほうがいいじゃないか。」
「……牽制か。」
「そうそう。」
「そうか……。でもそれって半分ストーカーだぞ。」
「まあ、いいじゃないか。……なんでお前がそのこと。気にするんだよ。」
「別にいいじゃないか。」
 実はこの秋戸賢、臼橋由梨の恋人である。
「ま、多分……臼橋にでも言われたか?調べて来いって。」
「な……。」
 志郎の言った事は図星であった。この秋戸という男、普段はのんびりとしているのだが由梨がからむと人が変わったようにすばやく動くようになるのである。
「まあいいよ、年下じゃ断りづらいだろうし。」
「それは関係ないだろ!」
 秋戸はムッとしたように声を荒げた。
「悪い悪い。」
「……年が上とか下とか関係ないでしょ。」
「……お前本当に好きなんだな、臼橋の事。」

「どう?ひどいと思わない?」
 志郎と秋戸がそんな会話を交わしている頃、利亜はフレンチレストランの店にいた。
「そりゃひどい話だね。」
 利亜の正面に座る男、恋人の瀬野成人(なりと)が答えた。
「でしょー?そんなの



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