私は歩いている。懐かしい道を。
 私がこの町に来たのは偶然だった。仕事で出張が決まった時、その住所は久しぶりで忘れられないものであるのに気づくのにそんなに時間はかからなかった。

 私は懐かしい駅を降りた。
「……ここ、どこ?」
と思わず口に出してしまった。
 私が幼稚園の頃に引っ越して以来、もう十年以上来ていなかったのだから当然だけども、ショックだった。

 私は早々と仕事を終わらせ、その町を歩くことにした。
 私が生まれてから幼稚園まで暮らしたこの町は、そんなに大きい町ではない。列車にしろ、急行や特急は停まらないようなところなのだ。
 私は自分が昔住んでいた家へ足が向かっていた。

 その家はまだあった。
「懐かしい。」
 私はすぐにそんな言葉が出てきた。
「まだ残ってたんだ……。」
 ふと、玄関の所にある表札が目に入った。私とは全く違う苗字。
 そりゃそうだ。私は勝手に納得した。
 しかし、そう納得した時、同じに寂しさがこみ上げてきた。
 もう、ここに居る事は出来ない。
 当然なことをあらためて気づいた。

 それから、私は公園に向かう事にした。私が昔よく遊んでいた公園へ。
 なんで、そう思ったのかはわからない。でも、とにかく行ってみたくなった。
 ……ところが、だ。
「道に迷った。」
 見事に迷ってしまった。いつも行っていていた場所に、だ。
「……やっぱり十年以上来てないとダメだな……。」
 そんなことを何気なくつぶやいた。
「……あ。」
 1時間ぐらい歩いた時、突然見たことのある風景にたどり着いた。
「ここって……。」
 そこは私がはじめて好きな場所に告白した場所。
「懐かしい……。」
 私はとても嬉しかった。
「そうだ。ここからなら……。」

 やはり。私の勘は当たっていた。
「やりっ!」
 思わず声を出して喜んでしまった。
 私は,公園にいる。
「ふう〜。」
 深呼吸した。深く、深く。
 私は近くにあったベンチに座った。
 太陽がきれいに輝いている。

「……?」
 いつの間にやら眠ってしまったらしい。
「なんだよ〜誰か起こしてくれても〜……?」
 自分でもワケのわからない文句を言いながらあるものが目に入った。
「これって……?」
 私の胸の上には透明な袋に入った青色の折り紙で作った紙ヒコーキがあった。
「なんで?」
 私はその紙ヒコーキを見つめた。
「誰が置いてったんだろ?」
 よーくその紙ヒコーキを見ると何か文字が書いてあった。
「がんばれ」
 青い紙ヒコーキに白い修正液でそう書いてあった。
「……誰なんだろ?」 「がんばれ、か。」
 私は気づいたら駅へ向かっていた。
 がんばろう、何故かそんな気持ちを感じながら……私は歩いている。
 自分のペースで、歩いている。

FIN♪


あとがきへ
小説目次へ
ホームへ