ある一人の少女が黄色いレンガの道の上を歩いていました。
 彼女の名は綾ドロシー。彼女の腕の中には犬のゆいゆいがいました。
 綾ドロシーが何故黄色い道の上を歩いているのか。それは今から少し前のことになります。
 綾ドロシーはカシワバというところに住んでいました。ある日竜巻が綾ドロシーの家を襲います。そして綾ドロシーは逃げ遅れてしまい家ごと竜巻に乗って飛ばされてしまいました。
 綾ドロシーが目を覚ますとそこはアズの国の東地区でした。そして落ちた家の下で東の魔女が死んでいました。ここの住人、マンチキンのコウチョウとキョウトウたちは東の魔女を退治してくれた、と大喜びしました。綾ドロシーがコウチョウとキョウトウからお礼を言われているとそこに一人の魔女が現われました。彼女の名前はオキタ、北の魔女です。オキタは東の魔女を倒したのが綾ドロシーだと知るととても驚きました。そして綾ドロシーに「アズの魔法使いに会いなさい。」と言います。綾ドロシーは東の魔女が履いていたルビーの靴を履き、アズの魔法使いに会うため旅に出ました。

 そして黄色いレンガの道を歩いていると綾ドロシーは麦畑へとやって来ました。
「おーい、そこの女の子―。」
「?」
 綾ドロシーは突然女の子の声が聞こえた。
「あれ?……誰もいない……?」
 綾ドロシーは周りを見渡した。
「こっちです、こっちです。」
「え?」
 綾ドロシーが声のほうを向くと一体の少女の姿をしたかかしがたっていた。
「……まさかアナタなの?」
 綾ドロシーはかかしに話しかけた。
「はい、そうです。」
 かかしは返事すると綾ドロシーの前に飛び降りた。
「はじめまして、ワタシはかかしのウッチーと言います。」
「は、はじめまして。私は綾ドロシーと言います。」
「あの〜ひょっとしてアズのまほうつかい様のところにいくんですか?」
「え、ええ。」
「お願いします!私もいっしょにつれて行ってください!」
 ウッチーは頭を下げた。
「実はわたし……知恵がほしいんです。」
 ウッチーは語り始めた。
「あとアズのまほうつかい様のファンだし……。」
 ウッチーはだんだん声が小さくなっていった。
「いいわよ。一緒に行きましょ。」
「やった!」
 ウッチーは飛びあがって喜んだ。
「私は綾ドロシー。この子はゆいゆいって言うの。よろしくね。」

 綾ドロシーとウッチーとゆいゆいは森の中へと入っていった。
「なんだか暗い森ね……。」
「こ、ここにはライオンがいるってうわさなんです。」
「ちょっと待って。何か聞こえない?」
 綾ドロシーは何か気配を感じた。
「え?え?」
 ウッチーは戸惑っている。
「わん!わん!」
「ゆいゆい?……気をつけて、ウッチー。」
 綾ドロシーとウッチーは緊張感に押しつぶされそうだった。と、
「があお!」
「「きゃあっ!」」
 二人の目の前にライオンが現われた。
「ど、どうしよう……。」
 綾ドロシーが焦っているとライオンが口を開いた。
「た、食べられるー!」
 ウッチーは完全にパニックになっている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
 ライオンが二人に話しかけた。
「え?」
「な、何?」
「オレは飯田ライオン。この森に住んでいるんだが……どこへ行くんだ?」
「アズの魔法使いに会いに行くの。」
「その靴はどうしたんだ?」
 飯田ライオンは綾ドロシーのルビーの靴を指差した。
「これ?これは北の魔女のオキタさんからもらったの。東の魔女を倒した記念って。」
「ふうむ……なあ、頼みたい事があるんだが……。」
「何?」
「オレもアズの魔法使いのところに連れて行ってくれないか?」
「え?」
「オレは……勇気が欲しいんだ。好きなモノを好きだと言える勇気が。」
「……わかった。おいで。私は綾ドロシー。こっちのかかしはウッチー。よろしくね。」

 綾ドロシーとウッチーと飯田ライオンとゆいゆいはまだ森の中にいた。空も暗くなり始めた。
「くらくなってきちゃったね。」
「そうね……。」
「どうする?」
「うーん……森の中で野宿、かな……。」
「あ、アレ何だろー。」
 ウッチーが指をさした先には一軒の丸太小屋があった。
「丸太小屋か……今日はあそこで休みましょう。」
 綾ドロシー達が丸太小屋に近づくと一つの人影が見えた。
「……あら?」
「何かいるな。」
「???」
 綾ドロシー達がさらに近づくとブリキでできたメガネをかけた木こりが立っていた。
「……?」
「あの……。」
 突然ブリキの木こりが話しかけてきた。
「油……を……さしてくれないかな……。」
「油?……これかな?」
 綾ドロシーが近くにあった油差しを手に取った。そして木こりに油をさした。すると
「うーん……助かったよ。僕は木こりの上原。君達は?」
「私は綾ドロシー。この子はゆいゆい。」
「ワタシはかかしのウッチー。」
「オレは飯田ライオン。」
「いったいこの森に何の用だい?」
「アズの魔法使いに会いに行く途中なの。」
「アズの魔法使い……僕も一緒につれていってくれるかな?」
「えーなんでー?」
「心が欲しいんだ。僕はブリキだからね。心が無いんだよ。」
「そう……。」
「だからアズの魔法使いに頼んでみようと思ってね。」
「いいわよ。一緒に行きましょ。」

 翌朝。綾ドロシー達は森を出発し、お昼頃にはアズの魔法使いが住むアズの城へとたどり着いた。
 綾ドロシー達は東の魔女をやっつけた事を言うとすぐにアズの魔法使いに会う許可をもらうことができた。
 アズの城はクリスタルが装飾に施されていてキラキラと光り輝いていた。
「うわ〜派手だね〜。」
「趣味はいいとは言えないね。」
「……。」
「みんな、そろそろアズの魔法使いの部屋よ。静かにして。」
 綾ドロシー達が部屋に入ると……
「誰ぇだぁっ!?」
 大きな声が部屋中に響き渡った。そして綾ドロシー達の目の前には
「ゆ……雪だるま?」
 部屋には巨大な雪だるまが鎮座していた。
「オレがアズの魔法使いだ!一体何のようだ!?」
「え……えっとその……実は私東の魔女を倒したんです……。」
「何!?」
 アズの魔法使いの声がさらに大きくなった。
「なるほど……東の魔女を……。」
 アズの魔法使いは一人でつぶやいている。ただ、つぶやいてる声も大きかった。
「ならば!今から西の魔女をどうにかして来てくれ!そうすればお前達の願いをかなえてやろう!」

 アズの城から出てきた綾ドロシー達は耳を抑えていた。
「……大きい声だったねー。」
「本当、耳がまだ痛い……。」
「とんでもない大声だったな……。」
「西の魔女か……。」
 四人は思い思いの事を喋っている。
「と、とにかく。」
 綾ドロシーは体制をたてなおした。
「今から西の魔女のところにいくわよっ!」
「「おおーっ!」」

 西の魔女を倒しに行く途中。日が暮れてしまったのでこの日は偶然あった丸太小屋に泊まることになった。綾ドロシーとウッチーで一つの丸太小屋。飯田ライオン、上原、ゆいゆいで一つの丸太小屋に泊まる事になった。
 その夜遅く。穢れなき月明かりの下。
「……。」
 飯田ライオンは外に一人で座っていた。
「眠れないのか?」
 上原が丸太小屋から出てきた。
「ああ。」
「一つ気になってたんだが……。」
 上原が飯田ライオンの隣に座った。
「西の魔女と何かあるのか?」
「……いや……。」
「そうか……ただアズの魔法使いから西の魔女の名を聞いてから何か変だったから。」
「……先に寝るよ。」
 そう言うと飯田ライオンは丸太小屋の中に入っていった。
「……。」
 上原は一人黙って座っていた。と、
「上原君?」
 上原が後ろを振り向くと綾ドロシーが立っていた。
「……となりいいかな?」
「……。」
 上原は黙ってうなずいた。
「……私も気になってたのよね。」
「飯田ライオンの事?」
「うん……。」
「何か隠してると思うんだけど……。」
「……。」
「そうだ、綾ドロシーさん。君はカシワバから来たんだっけ?」
「うん。」
「帰りたいとは思わないの?」
「……。」
「アズの魔法使いに頼めば帰れるんじゃないかな?」
「……上原君。」
「ん?」
「心が欲しいっていったけど……何で?」
「それは僕に心が無いからだよ。」
「本当にそうなのかしら……。」
「……僕も寝るよ。」
 そう言うと上原も丸太小屋へ入っていった。
「……。」
 綾ドロシーはそんな上原を心配そうに見つめていた。
「……。」
 綾ドロシーは黙ってしまった。
「私の考え過ぎなのかな……。」
 綾ドロシーは夜空を見上げた。
「……あら?」
 月の中に黒い点が見える。
「……さっきはあんなの無かったわよね。」
 黒い点はじょじょに大きくなっていく。
「何かしら……。」
 突然。
「っ!?」
 綾ドロシーは突然口を塞がれた。
「……っ……。」
 そのまま、Fade・Out。

 翌朝。
「……いない。やっぱりいないよ。」
 ウッチーが息を切らせて戻ってきた。
「どこいったんだ?」
 飯田ライオンも息が切れている。
「……。」
 上原は黙っていた。
「ねえ、ゆいゆい。綾ドロシーちゃんの匂いわからない?」
「くうん……。」
 ゆいゆいは元気なさげに泣いた。
「……僕が……。」
「どうした、上原。」
 飯田ライオンが上原に声をかけた。
「……実は……。」
「わんっ!」
 突然ゆいゆいが大きな声で鳴いた。
「どうしたの、ゆいゆい?」
「どうした!?」
「……何だ、いったい……。」
 三人はゆいゆいのところへ駆け寄った。そこには
「……これは……。」
「メダルだねー。」
「これは……西の魔女のだな。」
「「ええっ!?」」
 飯田ライオンの言葉に二人は驚いた。
「おそらく西の魔女に連れ去られたんだろう。」
「……。」
「……西の魔女の事、詳しいんだな。」
「行くぞ。」

 その頃。
「……起きなさい、綾ドロシー。」
 綾ドロシーは誰かの声で目を覚ました。
「ん……。」
 綾ドロシーの目の前には一人の女性が立っていた。
「起きた?綾ドロシー。」
「あなたは?」
「私は西の魔女、栗子。」
「西の魔女!?」
 綾ドロシーは思わず声をあげた。
「そう。あなたが倒そうとしてる西の魔女。」

「ここだ。」
「ここが西の魔女の住処か。」
 飯田ライオンと上原が城を見上げている。
「……何故住処を知っているんだい?」
「……。」
 飯田ライオンは黙っていた。
「ねえーみんなー。」
 ウッチーとゆいゆいが走ってやってきた。
「ダメ。どこにも入り口が無いよー。」
「ふうむ……。」
 上原は黙ってしまった。
「こっちだ。」
 飯田ライオンは城壁の装飾の一つを叩いた。すると重い音とともに入り口が現われた。
「行くぞ。」
「……。」
 上原は黙りながら飯田ライオンの後をついていった。

「……あなた、何故ここに来たの?」
 栗子は低い調子で尋ねた。
「……。」
 綾ドロシーは黙っている。
「私を倒してどうするつもり?」
 栗子の目は悲しく光っている。
「私を倒して……二度と……彼……い、い……。」
「彼?」
 綾ドロシーは聞き逃さなかった。
「彼って……まさか……?」
「……綾ドロシー?あなた……自分の立場がわかってる?あなたは……。」
「とうりゃぁっ!」
 突然、壁が崩れた。そして
「あ、綾ドロシーちゃんっ!」
 ウッチーが最初に部屋に飛び込んできた。そしてゆいゆい、上原が続けて部屋に飛び込んできた。
「良かった〜無事だったんだね〜。」
「無事で何より、綾ドロシーさん。」
「あ、ありがとう……。」
 そう言いながら綾ドロシーは栗子の方を見た。
「……栗子……。」
「やっぱり来たんだ、飯田ライオン。」
 飯田ライオンと栗子は向き合っている。
「栗子、聞いてくれ。」
「……聞きたくない。」
「栗子、……オレはお前が大事だ。」
「え?」
「昔お前に言えなかった事だ。昔……俺に勇気が無くて……。」
「飯田ライオン……。」
 栗子の目にまた光が溢れ出した。
「栗子……今まですまない……。」

「でも大丈夫かなー?」
 アズの城への帰り道。ウッチーがみんなにたずねた。
「大丈夫と思うんだけど……。」
 綾ドロシーは首をかしげた。
「ごめんなさい、私のせいで……。」
 栗子が申し訳なさそうにしている。
「気にする事ないよ。アズの魔法使いに何を言われても。」
「わんっ!」
「……。」
 飯田ライオンは黙っている。

「よくぞ戻ってきたぁっ!」
 アズの魔法使いは相変わらず声が大きかった。
「……大きいのは変わらないのね……。」
「西の魔女を改心させるとは……見事だぁっ!」
 雪だるまは少し振動で震えている。
「で、ごほうびなんだけど……。」
 ウッチーがおそるおそる尋ねた。
「もちろん授けるとも。何が欲しい?」
「オレはもういいよ。」
 まず飯田ライオンが答えた。
「オレが欲しかった勇気はもう手に入れたし……栗子もそばにいるからな。」
「そうか。」
「僕は心が欲しい。」
 次に上原が答えた。
「心?」
「そう、心が欲しい。」
「……オレはもう君には持ってると思うけどな。」
「え?」
「綾ドロシーがいなくなった時君は心配した。飯田ライオンが何かを隠しているんじゃないかと思った時も君は心配した。綾ドロシーを見つけた時喜んだだろ?」
「……そっか……。」
「良かったじゃない、上原君。」
 上原が振り向くと綾ドロシーが微笑んでいた。
「元から心持ってたんじゃない。」
「わ、私は知恵がほしい!」
 続いてウッチーが叫んだ。
「……知恵……。」
 はじめてアズの魔法使いが戸惑った。
「……あれ?私もみんなみたいに旅しているあいだに……。」
「なってないみたいだね。」
「わん!」
「……くすん。」
「……どうしたものかな……。」
「ちょ、ちょっとまほうつかいなんでしょ。どうにかしてよー!」
 ウッチーが雪だるまに飛びかかった。すると、
「あれ?」
「「「「ええー!?」」」」
 雪だるまが崩れ去った。
「な、なんでー?なんでアズのまほうつかいがくずれるのー?」
「しょーがねーなー。」
 突然雪だるまの後から一人の青年が現われた。
「あ、あなたは?」
「オレの名はアズの魔法使い。略してアズマだ。」
「なるほど……正体を隠してたのか……。」
 上原が一人で納得している。
「うーん、まさかオレの正体を見ぬく奴がいるとは思わなかったな。」
「ねえー……わたしの願いは……?」
「んー……。」
 アズマは少し考えていた。と、
「そうだ!オレが勉強見てやるよ。」
「本当!?」
「ああ、オレがウッチーの先生になるよ。」
「やったー!!」
 ウッチーは飛びあがって喜んだ。
「……で。お前はどうするんだ、綾ドロシー?」
「私は……。」
「カシワバに帰るんだろ?」
「……。」
「そっかー……綾ドロシーちゃんはこの国の人じゃないもんね。」
「うーん……困ったな。俺も帰り方は……。」
「帰れますよ。」
 その時、部屋の入り口から女性の声がした。
「お久しぶりです、アズの魔法使い。」
「あ、ヨーコさん。」
 部屋の入り口には一人の美しい女性が立っていた。
「ヨーコさん?」
「はじめまして、綾ドロシーさん。私は南の魔女のヨーコと言います。」
 ヨーコは綾ドロシーに微笑みかけた。
「あなたが履いているルビーの靴。そのかかとを三回鳴らして呪文を唱えれば帰れるわよ。」
「良かったじゃない綾ドロシーちゃん。」
「寂しくなるな。」
「……行っちゃうんだね。」
「私は……帰らない。」
 綾ドロシーがそう言うとみんな驚いた。
「だって……私は……仲間が……みんなが大事だから!」

「……綾さん、綾さん。」
 綾はゆっくりと目を開けた。
「……?」
「おはよう、綾さん。」
 綾の目の前には上原が立っていた。
「また徹夜で勉強してたのかい?あまりムリしない方が良いと思うけど。」
「……私寝てたんだ……。」
「ほら、もうすぐアズマが来るよ。」
「……。」
 綾は上原を見つめている。
「どうしたんだい、綾さん?」
「上原君も変わったわよね。昔はもっと冷たい感じだったけど。」
「……?あ、ほらアズマが来るよ。」
 上原はそう言うと自分の席に戻った。
「……なんだか楽しい夢だったなあ。後でみんなに言おうっと。」
 綾は一人微笑んでいた。今日も柏葉の空は晴れていた。

END


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