「久しぶりだな……。」
 公園に葉桜が生えている。
「……葉桜か。」
 その葉桜を見つめながら一人の男がやって来た。
「……。」
 その男は眼を閉じて過去を思い返していた。まだ、彼がまだ高校生だった頃の事を。そして何年も前に別れた彼女の事を。

「ねえ、智さん。どうしたの?」
「……?」
 男―智は呼びかけられて眼を開けた。
「……ここは……。」
「何言ってるの、ここはいつもの公園じゃない。」
「あ、ああ。そうだったっけ。……俺今ちょっと寝てたな。」
 智は微笑んだ。
「でも残念だったね。せっかくお花見に来たのにもう花が散っちゃってるなんて。」
「……ああ。でも葉桜もいいもんだよ。」
「葉桜?」
「ああ、桜の花びらみたいにかわいさは無いけど何て言うのかな……かっこいいんだよ、何か。」
「かっこよさ……ねえ。」
「ああ。俺けっこう好きなんだよ葉桜が。」
「だからなの?今日お花見に行こうって言ったのは。」
「……うん。」
 智はまた軽く微笑んだ。
「ひっどーい。」
「怒るなよ。」
「……うん。」
「なあ、膝枕してくれないかな?」
「いいよ。」
 智は寝転がった。
「……あのさ。」
「ん?」
「こうしてるとさ、葉桜が背景になるんだよ。」
「うん。」
「そしたらお前やっぱりキレイだなって……。」
「……バカ。」
「何でだよ。褒めてんだろ。」
 智はそう言いながら赤く照れる顔を見た。
「……ねえ。今ちょっと思いついた詞があるんだけど聞いてくれる?」

葉桜

太陽の光と抱き合って エネルギーを歌声にして 私達の目を抱きしめた 私達と一緒に笑っている 目立たないけど    何気ないけど      私達を見つめている  私達にほほえんでいる  力強い息吹が     力強い芽生えが     力強く包み込むよ   優しく包み込むよ    私達を        私達を        


「……どう?」
「聞いてて恥ずかしい。」
「えー?」
「だってお前……包み込まれてもなあ。」
「けっこうイイと思ったんだけどなあ。ダメ?」
「いや、ダメじゃないよ。葉桜を見てくれて、しかもこんな感じで褒めてくれるなんて……喜んでんじゃないのかな。」
「本当?だったら私も嬉しい。」
「ああ……なんか気持ち良くなってきたな。ちょっと眠っていいかな?」
「うん。」

「……?あれ……?」
 智が目を開けた。
「……懐かしいな……。この町を離れてからも葉桜っていうといつも思い出すな……沙梨香……。」
 智は葉桜を見上げた。
「……智君?」
 智は懐かしい声を聞いた。
「……沙梨香?」
 桜の木をはさんで反対側から女が現れた。
「ねえ、智君だよね。」
「こんなとこで何やってんの?」
「いや、俺は久しぶりにこっちに戻ってきたから……ちょっと懐かしくなって、な。沙梨香は?」
「私はあれからずっとこっちにいるんだけど、突然思い出したのよ、葉桜を。」
「……葉桜を?」
「ねえ、覚えてる?私が作った詩。」
「ああ……。」
 葉桜がそんな二人を見つめていた。そして、包み込んでいた。

END

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