「……あら?メール?」
 私はそうつぶやきながら携帯電話を手元に持ってきた。
「……『もう七夕の季節ですね。今年は織姫と彦星は会えるでしょうか?今年も課では七夕の笹飾りをしてるんでしょうね。今年も願い事を書きたいのでオレの席に座ってる派遣の女性に短冊を届けて欲しいです。』……。」
 古田くんからだった。ちょっと私は考えてそのままメールを消した。
「……。」
 仕事の手を止めて星野さんのほうを向く。星野さんは今日もとても速い動きでデータを打ちこんでいた。と、星野さんがこっちの視線に気づいたらしく笑いかけてきた。こっちも笑い返す。
「水木さん、どうしたんですか〜?」
 星野さんがこっちに向かってくる。
「何でも無いんだけど……相変わらず仕事が速いなぁって思って。」
「何なに?仕事の話?」
 園田さんが話に入ってきた。
「星野さんの仕事っぷりの話よ。」
「そうよね。星野さんって本当に早いのよね。何でなの?」
「馴れですよ〜♪」
 そう言いながら星野さんはまた笑った。本当、星野さんの笑顔って楽しそう。こっちまで楽しくなっちゃうわね。

 その日は課のみんなで呑みに行く事になった。この日は焼き鳥。
「オレねぎまとレバー。」
「私はつくね。」
「オレは皮。塩で。」
「私はねぎまと皮〜。」
「はい、ねぎまがタレ5人と皮がタレのが3人、塩が1人。レバーがタレで3人、モモがタレ4、塩2ね。あとはみんな生ビールでいいの?」
 そう言いながら私は注文をする。何故かわからないけど私はよく注文係になってしまう。嫌ってわけじゃないけど……。
「では、かんぱーい♪」
 今日は暑いからみんなビールの減りが早い。特に今日は星野さんと飯田くん、そして友坂さんの減りが早かった。私はいつも通りのペース。ここにいるのは楽しい。みんないい人だし、居心地もいい。でも……。

「お疲れ様でした〜。」
 そこそこに飲み会が終わり、解散になった。
「じゃあね、友坂さんに星野さんに水木さん。」
「また明日です〜。」
 私、星野さん、友坂さんの3人はみんなとは逆方向に歩いて行った。課長はまっすぐ家に帰るらしい。大塚さん、飯田くん、菅野さん、園田さんはこの後も呑みに行くらしい。
「……星がキレイですね〜♪」
 星野さんの言葉に反応して夜空を見上げる。
 星は、本当にキレイだった。最近ではこんな都会の方でこんなキレイに星が見える事って少なくなったのに。
「そういやもうすぐ七夕だな。」
 友坂さんの言葉で古田くんからのメールを思い出した。
「あ……。」
「どうしたんですか〜水木さん?」
「ん?何でもないの。ちょっと……星がキレイだったから……。」
「そうですか……今年は織姫と彦星会えますかね〜。」
「会えるといいわね。」
 そう言いながら友坂さんのほうを見た。友坂さんは空を見上げていた。
「……。」
 私はそこから黙ってしまった。
「……あの星が。」
 星野さんがまたつぶやき始めた。
「コンペイトウみたいですね〜。」
「ぶはっ。」
「くすっ。」
 私も友坂さんも思わず笑ってしまった。けど、
「星野さん……だとしたら天の川は大変だな。無数のコンペイトウが星野さんに向かって……。」
「うわあ〜。」
「ま、それでも星野さんなら全部食べられそうだけどな♪」
「ひど〜い〜。いくら私でもそんなに〜。」
 そう言いながら星野さんは笑っている。本当、星野さんと友坂さんって楽しそうにじゃれあっている。……この二人……いつになったら……。
「……じゃ、私はここで。それじゃまた明日ね。」
 そして私は友坂さんのそばによって小さな声で、
「……友坂さん、この後はどうするの?」
 そう言って私は二人と別れた。
「……また明日な。」
「また明日です〜。」
 二人の声が後ろから聞こえてくる。そして、私は一人で自分の家へと帰っていった。……あの二人、本当にお似合いだと思うんだけど……。

 翌日。私が会社に着くともう星野さんは来ていた。友坂さんは……まだみたい。私は星野さんに昨日のあの後のことを聞いてみることにした。
「ねえ、星野さん、あの後どうしたの?」
「あの後ですか〜?」
 そう言うと星野さんの顔が赤くなった。
「あら?」
「じ、実は……あの後……。」
 星野さんが恥ずかしがっているのはすぐにわかった。あの後何かあったのかな?
「思いっきり大きなクシャミしてしまって……鼻水が……。」
「鼻水?」
「ええ、鼻水が。私その時ちょうどティッシュ持ってなかったんですよ〜。それで友坂さんに借りて……。」
「そ、そう。」
 ちょっと期待外れ。そっか、それだけか。
「おはよー、二人とも。」
「おはようございます課長。」
「おはよ〜ございます〜。」
「みんなまだ来てないのか。あ、そうだ水木くん、ちょっと。」
「はい、課長。」
 考えてみたら取り様によっては全てを気取らずにいれる相手、ってことかしら?
「……じゃ、夕方までに頼むよ。」
「はい、わかりました。」
「しかし昨日は楽しかったな。」
「そうですね。」
「何と言うか……居心地良かったな。まるで家族みたいで。」
「あ。」
 なるほど。家族みたいで、か。だから居心地が良いんだ。家族みたいじゃあなかなか恋には……ね。
「水木さ〜ん。」
 振り返ると星野さんが微笑みながらパンを手に持っていた。
「今日のおやつこれにしましょ。今朝来る途中で見つけたんですよ〜。『ソーセージ☆まーちパン』て言うんだそうです。」
 星野さんの笑顔を見て私も思わず笑顔になる。本当、この課って家族みたいに居心地いいんだから。
「おはよー。」
 友坂さんがやって来た。
「あ、おはよ〜ございます〜。」
 本当、あの二人お似合いなんだけどな〜。
 そんなことを思っている時、星野さんの携帯が鳴った。
「あら?」
「メールみたいです〜。」
 そう言いながら星野さんはメールを見た。
「……古田さんからです。」
 あ。私は今まですっかり忘れていた古田くんを思い出した。
「な、なんて?」
「えーと……『もうすぐ七夕ですね。オレも願い事をしたいので短冊を持ってきてください』ですって。」
 な……直接本人に頼むことにしたのか。
「行く事無いぞ。」
 友坂さんが星野さんにそう言った。
「え、でも……。」
「願い事なら聞いてオレが代わりに短冊に書けば良いんだから。」
「あ、そうですね〜♪」
 あらあら、今回も古田くんの作戦は失敗みたいね。星野さんと友坂さん、いったいこれからどうなるのかしら?なにしろ家族みたい、だからね……。
 ん?ちょっと待ってよ……。この課が家族みたいってことは……私がお母さん役ってこと?……やっぱり家族みたいってのは無かった事にしとこう……。
「おはようございます。」
「おはようございます〜園田さん。」
「おはよう、園田さん。」
 さ、今日も一日仕事頑張りますか!

〜END〜


おおた綾乃先生の部屋
小説目次へ
ホームへ