にゃあ〜あお、あー気持ちいいなー、ひなたぼっこは。…あ、まただ。あのバイクのお姉ちゃん、いっつもすごいスピードで走ってるなぁ。あのお姉ちゃんっていつもあんなに急いでどこにいくんだろう?そんなに忙しいのかなあ?
 あ、はじめましてボクはこの家で飼われてるネコです。
「あれ?こんなとこにいたの?探したわよ〜。」
 あ、呼んでたんですか?全然気づきませんでした。…まだみんな帰ってきてないみたいですね。この女の方はこの家のママさんのユウさんです。
「あ!ダメだよ!」
 あれ?外からナオさんの声が。ナオさんというのはこの家の息子さんです。
「お帰り〜ナオ〜♪」
「早く家の中に隠れて!」
 ナオさんは走って家の中に入ってきました。

「まったく…母さんが幽霊だってことは隠しておかなきゃダメなんだから気をつけてよ。」
 ボクはユウさんに後ろについていって部屋の中に入っていくとこの家の娘さんのイクさんがボクが気づかないうちに帰ってきてました。ナオさんはぶつぶつ文句を言っています。
「ごめ〜ん。」
 ユウさんはあやまってるみたいですけど笑顔です。ナオさんもそれにつられて笑顔になってますよ。
 ……え?幽霊ってどういうことか、ですって?……じつは……僕が悪いんです。しくしく。あの日どうしてそうなったかはわからないんですが、とにかくボクのかわりにユウさんが車にひかれちゃったんです。ボクは何が起こったのかわからなかったんです。
 けっきょくそのままユウさんは死んでしまいました。ボクは神郷さん一家……あ、神郷さんというのはユウさんやナオさんの名字っていうやつです、ボクはその神郷さん一家にお世話になることになりました。ナオさんが言うには「母さんが命と引き換えに助けたんだから、お前は一生懸命生きなきゃダメだぞ。」だからだそうです。……正直に言いますと最初は怖かったんです。うらまれてるんじゃないかって。でも、神郷さん一家はボクにやさしく接してくれました。本当はつらいはずなのに……。
 ユウさんのお葬式ではパパさんのセイさんは大泣きでした。そりゃそうですよね、大事な人が死んじゃったんだから。ボクはセイさんの涙を見て本当に悪いことをしてしまったなあと思いました。そしていつのまにかボクも泣いていたんです。それで神様、どうかボクの命とひきかえに生き返らせてあげてください……そう祈ったんです。
 お葬式も終わってボクたちは家に帰ってきました。
「おかえりー夕飯できてるわョ〜。どうしたの、みんなしてこんな遅くまで。」
 あれ?今誰か女の人の声がしたよなあ?そう思っていると部屋の中にはどこかで見たような女の人が笑顔で立っていました。
 「どうしたのって母さんの葬式じゃんか。まいったよ、皆の前で父さん号泣しちゃっ……て!?」
 突然大きな声をあげながらセイさんとナオさんが後ろにのけぞりました。イクさんだけ近づいて行きました。「ま〜ま。」って言いながら。
 そこでボクも気がついたんです。そう、その女の人はボクの身代わりになって死んだユウさんだったんです。そりゃボクもびっくりしましたよ。でも、幽霊だっていう事はすぐに気がつきましたよ。でもでも、実際に幽霊を見たのは初めてだったんですから。それにしてもセイさんもナオさんもとても喜んでましたね。イクさんはまだわかってなかったみたいです。それでも本当に嬉しそうでしたよ。ボクも思わず泣いちゃいました。
 ユウさんはやっぱりやさしい方でした。ボクを助けてくれたんですから当然と言えば当然なんですがね。……でも本当に明るい方ですね、ユウさんって。だって「でもなんか隠しとくのもったいないナ。幽霊だなんてスゴイ事なのに。」なんて言うんですよ。死んじゃってもここまで明るいユウさんっていったい?でもセイさんもナオさんもイクさんもユウさんのそんなところが好きなんでしょうね。
 そういやボク、その時ユウさんに「ふんじゃっ太」なんて名前を付けられてしまいそうになってしまいました。あまりワガママは言えませんけど、その名前はちょっと、ねえ。
 そんなわけで、ボクはこの神郷さん一家にお世話になることになりました。いくら一家そろっているとは言え、やっぱりユウさんは幽霊なわけですから……せめて何か役に立ちたいな、と……。今のところは家にユウさんが一人だけの時にお守りする役目をうけおってます。勝手にだけど。でも本当にボクの命と引きかえにユウさんを生き返らせてくださいよ、神様。……でもそんなことは起こりそうにないです。あ〜あ、どうしたらいいんだろう?そういやお葬式の時に「ボクの命とひきかえに生き返らせてあげてください。」ってお願いしたんだけど……。かなえられないんですか〜神様〜。
 え?けっきょくボクの名前はどうなったかって?もちろん「ふんじゃっ太」じゃありませんよ。ボクの名前は……それは次にお会いするときにでもってことで今はひみつ♪それじゃ、にゃお〜♪

つ・づ・く


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