今日は町内演芸大会の日。舞台上には幕が降りている。どこからかみるく店長の声が聞こえる。
「みなさーん!お待たせしました〜♪いよいよ始まりますわが『コンビニぶんぶん』の面々がおりなすニューウェーブ剣劇ギャグ『さぶらう人々』!では、始まり始まり〜。」

 幕が開くと舞台上には一人の目の細い男が立っていた。
「……はあ。全く一体何なのだ?あの二人は?」
 目の細い男は舞台中央で立ち止まっている。と、
「待てい!如月福之進!」
 舞台下手から忍者装束に身を包んだ男が現れた。
「どうした、らいと。」
 目の細い男がそう言うとらいとは思いっきりこけた。
「あほか―――――!麦千代!俺は今らいとじゃなくて『師走』だろーがー!」
「お前も麦千代って言ってるぞ。」
「うるさい!」
「ちゃんと芝居やろうぜ、師走君?」
「あったまくんなー!」
 ここでいったん師走に扮したらいとは舞台下手に引っ込んだ。
「福之進さーん!」
 同じく下手からつけ耳をつけた忍者少女、水無月に扮したりんぐちゃんが現われた。
「りんぐちゃん……じゃなかった水無月ちゃん、どうだい僕の犬にな。」
 その時突然師走に扮したらいとが思いっきり福之進の麦千代を(ああややこしい)蹴り飛ばした。
「麦千代――――!お前はドサクサにまぎれて何言おうとした―――――!!!!!」
「痛いんですけど。」
「やかましい!」
「それに今は芝居中だよ、し・わ・す・く・ん。」
 福之進に扮した麦千代は(だからややこしいって)不敵な笑みを浮かべながら人を小ばかにしたような声を出した。
「ああ、そうだった。……えーと、やい如月!いいか、このロリコン野郎!絶対にいつかぶっ倒してやるからな!」
「できないだろうね、一生。」
「腹立つ―!」
「何言ってるんだい師走君。これもセリフの一つだよ。」
「うそつけ!そんなセリフ無かったぞ!」
 そんな事を言っていると上手より一人の女剣士が現われた。
「待ちなさい、如月福乃進。」
 女剣士―もちろんみるく店長なのだが―ははっきり言って美しかった。師走に扮したらいとは(もうヤダ。ややこしすぎる。)覆面で顔が隠れていたにもかかわらず赤い顔である事がまわりから見てわかるほどであった。
「私と勝負してもらいます。」
「ほお……仕方がありませんね。」
 そう言うと福乃進の麦千代は(もうやめだ、やめ。)剣を抜いた。みるく店長も剣を抜いた。
「何の因果か知りませんがやられるわけにはいきません。」
「覚悟なさい、福之進。」
 二人は剣を抜いたまま対峙した。二人は互いに相手に全神経を集中させていた。ので、
「スキありぃぃぃ――――!」
 師走らいとがみるく店長に飛びかかった。
(へへっ、ラッキー。)
 師走のらいとはみるく店長の動きを封じるように抱きついていた。
「さあ、福之進今のうちにー。」
 が、そこまで言うと師走らいとが舞台の上から消えた。
「いいかげんにしなさ―――――い!!!!!」
 みるく店長が師走らいとを投げ飛ばした。
「はー……はー……ドサクサにまぎれて何やってんのよ!」
「……あのーこっちは……。」
 舞台上では怒ってるみるく店長、剣を持ったまま置いてけぼりの福之進麦千代、そしてさらにほったらかしの水無月りんぐちゃんだけになっていた。
「はあ……邪魔が入ったけど今度こそ勝負よ!麦……福之進!」
 そう言うとみるく店長は斬りかかった。
「とぁっ!」
 二人の殺陣のシーンは息詰まるシーンだった。みるく店長の運動神経はさることながら麦千代も器用に剣術をこなしている。実際はどんなシーンだったかはご想像願う。
「てやー!」
「はっ!」
 みるく店長が決めようと麦千代の胸元にかかっていった。が、
「とう!」
 次の瞬間福之進麦千代が高く跳ねた。そして
「とーう!」
「ああっ。」
 みるく店長の手から刀が叩き落された。
「くっ。一思いに斬りなさい、福之進。」
 みるく店長はへたれこんでいる。
「いえ。女を斬る気にはなりませんから。」
「!何故それを……。」
「見てればわかりますよ。」
「……でも今私を斬らないとまたあなたを……。」
「それでは。」
 福之進麦千代はそのまま立ち去ろうとした。が、
「待ちなさい!麦ちゃん!」
「!?あの声は……。」
 そう、上手から登場したのは
「麦ちゃーん♪私も来たわよー♪」
「は、母上!?」
「麦ちゃんたらー♪私に内緒でこんな事するなんてずるいわよ♪」
 麦千代の母上も女剣士の格好をしている。
「な、なんで母上がここに……。」
「りんぐちゃんが誘ってくれたのー♪」
 福之進麦千代はりんぐちゃんのほうを見た。りんぐちゃんは
「にょ!」
といいながら手を挙げた。
「な……なんでりんぐちゃん……。」
「麦ちゃん……あなたに倒された我が亭主の仇、ここでうたせてもらうわよ!」
 そう言いながらふところから六条一間(47)の写真(ご丁寧に写真たてに入っている。)をとりだした。
「見ててね、あなたの仇ここでうつから……。」
 麦千代の母上の目からは涙が流れた。見事な演技力である。
「かってに殺してどうするんですか母上。」
「というわけで、覚悟ー麦ちゃん!」
 そう言うと麦千代の母上は福之進麦千代の手から刀を叩き落した。
「しまった!」
「ふっふっふ。勝負あったわね。」
 そう言うと麦千代の母上は福之進麦千代ににじり寄ってきた。
「!?母上何を……。」
 麦千代の母上は福之進麦千代の腕をつかむとプロレス技をかけ始めた。
「い、痛い!痛い母上!」
 福之進麦千代は結局おもちゃにされてしまった。

 その頃。
 演劇大会会場から離れたところにはさきほどみるく店長に投げ飛ばされた師走らいとがまだ行き倒れとなっていた。

 いつのまにかみるく店長の姿が舞台上から消えている。
「……いろいろありましたがこれにて『さぶらう人々』一件落着、めでたしめでたしで〜す♪みなさまありがとうございました〜♪」
「めでたくなーい!」
 まだおもちゃにされている麦千代の声が響いた。さて、麦千代が解放されるのとらいとが目を覚ますのとどちらが先になるのやら……?




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