クリスマスの夜、リズはビルの展望台に来ていた。
「わあ……夜景がきれいね。」
 リズはそういうと後ろを振り返った。そこには、リズの彼氏が立っていた。
「だね。……。」
「どうしたの?ジョン?」
 ジョンは少し照れくさそうにしている。
「……受け取ってくれるかな。」
 ジョンは小さな箱を取り出した。
「これ……。」
 そう言うとリズは箱を開けた。
 中には指輪が入っていた。
「結婚してほしいんだ。」
「うん……。」
 外は雪が舞い始めた。
「ホワイトクリスマスだ。」
 ジョンが外を見て懐かしそうにつぶやいた。
「きれい……。」
「……あのさ。この展望台って思い出があってさ。」
「へえ……どんな?」
「僕の両親がクリスマスの晩、ここに来てたことがあったんだって。」
「うん。」
「その時、何の話をしていたと思う?」
「やっぱり……プロポーズ?」
「いや、別れ話。」
「……。」
 リズは黙り始めた。
「その日、最後の思い出にしようって言ってここに来たんだ。知ってるかな、このビルって一度取り壊されて無くなりかけただろ?」
「ええ、でも建て直したのよね。」
「その取り壊される時……両親はここで最後のデートをしてたんだ。」
 ジョンは窓の外を見ながら話している。
「最後のデートの時……あのさ、リズはサンタクロースって信じてる?」
「サンタクロース?」
 リズは静かに驚いた。彼女の頭には昔の記憶がよみがえっていた。
「子どもじみてる、って笑うかもしれないけどさ……。」
 ジョンはリズの変化に気づかず話し続けた。
「両親がここに二人でいたらサンタクロースが現れたんだって。そしてサンタが話しかけてきた。『今日で別れる』って事を言ったら……どうなったと思う?」
「どうなったの?」
「クリスマスプレゼントですって言われて……雪が降ってきた。この展望室に。」
「この部屋に……。」
「……信じた?」
「……うん。」
「本当に?」
「……あのね。私のおばあちゃんがクリスマスの日に死んだの。」
「!?」
 ジョンは戸惑っている。
「おばあちゃんが死んだ日の夜……眼が覚めて廊下に出たの。そしたらサンタさんがいたの。」
「……。」
「私のおばあちゃんが子どものころからサンタさんと知り合いだったらしいの。私びっくりしちゃって……で、その時もこの展望室に来たの。そして二人は思い出話をしたの。おばあちゃんがひいおじいちゃんと始めて会った時のこと、ここでカップルに雪をプレゼントしたこと……。」
「!!!」
 ジョンは顔を上げて驚いた。
「そ、それって……。」
「……これ……奇跡よね。」
「うん……。」
 二人はそれっきり黙っていた。
 ふと、リズが窓の外を見た。
「あっ!?」
 その声につられてジョンも窓の外を見た。
「流れ星……。」
 窓の外には流れ星が流れていた。幾千の星が流れていた。
「すごい……奇跡だ……。」
「本当……きれい……。」
 リズは外を見た。
「あ……。」
 空にソリが浮かんでいるようだった。そして、サンタクロースが微笑んでいるような気がした。


END


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