「ねえ、ママ。」
「何?リズ?」
「おばあちゃん……大丈夫なの?」
「……。」
 リズの母親は黙ってしまった。
「……やっぱり悪いんだ……。」
「……お医者さんは今夜あたりって……。」
「そんな、今日はクリスマスじゃない!」
「リズ……。」
 それきり、母親は黙ってしまった。
「……私、おばあちゃんのそばに居る。」
「でも、リズ。それじゃサンタさんは来ないわよ。」
「いいよ、今年は。おばあちゃんが元気にならないと。」

「……おばあちゃん……。」
 リズは夜中に突然目が覚めた。
「……やっぱり様子を見に行こう……。」
 リズは祖母が眠る部屋へと向かった。

 リズはそっとドアを開けた。
 祖母が静かに眠っていた。
「おばあちゃん……。」
 リズはそっと祖母の手を握った。

「……?」
 リズは目を覚ました。
 いつのまにか眠ってしまったようだった。
 手はしっかりと祖母の手を握っていた。
「……寝ちゃってたんだ。」
 その時だった。
「……自分の部屋に戻ろうかな……。」
 そう言うとリズは廊下に出ていった。

「……?」
 リズは誰かの気配を感じた。
「……誰か……いるの?」
 リズは恐る恐る声を発した。
「おやおや、この家はよく見つかってしまうな。」
 その声は暖かな声だった。
「誰?」
 リズは恐る恐る尋ねた。
「私はサンタクロースだよ。」
「え?」
 リズは思わず戸惑った。
「サンタ……クロース?」
「ああ。」
 サンタクロースは穏やかな声で話している。
「懐かしいな、マリアに聞かれたときもこんな感じだったっけ。」
「え?」
 リズは少し驚いた。
「おばあちゃんのこと知ってるの?」
「ん?おばあちゃんと言う事は……君はリズかな?」
「私の事も知ってるの?」
 さらにリズは驚いた。
「ああ、マリアが子供のころから……。」
「お願い。」
 リズはサンタの話をさえぎった。
「おばあちゃんに会ってあげて。」

「こっちよ……。」
 リズはサンタを祖母の部屋に招き入れた。
「おばあちゃん……。」
「マリア……。」
「もう、あまり長くないんだって。」
「そうなのか……。」
「おばあちゃん?聞こえる?」
「いや、いいよ。」
 サンタは目を伏せた。
「あまり無理させちゃいかん。」
「でも……。」
「……サン……。」
「!?」
「サンタさんね……。」
「マリア?」
 マリアがゆっくりと眼を開けた。
「お久しぶり、サンタさん。」
 マリアの声はか細かった。
「マリア、無理しちゃいかん。」
「大丈夫よ。」
 マリアは体を起こした。
「よかったわ、今年もまたあなたと会えて。」
「……。」
「あら?リズ?」
 マリアは孫の方に向き直った。
「あなたも……サンタさんに会えたのね?」
「うん……。」
「どう?私の言った事本当だったでしょ?」
「おばあちゃん、大丈夫なの?」
「え?」
「マリア、聞いたよ。病気なんだって?」
「ええ……。」
「治るのかい?」
「もちろん。」
 マリアの代わりにリズが答えた。
「そんなの、治るに決まってるじゃない。」
「……もう……あまり長くないと思うわ。」
 マリアはつぶやいた。
「え?」
「ちょ、ちょっと。」
 リズは慌てた。
「なに言ってるのよ。そんなわけないでしょ?」
「いいのよ、リズ。」
 マリアの顔は寂しげな優しさだった。
「もう、わかってるから……。」
「マリア。」
 サンタの目は潤んでいる。
「やだ、やめてよサンタさん。あなたは全世界の子供たちの希望なのよ。こんな私のために泣かないで。」
「……もうダメだって思ったら……ダメにしかならんよ。」
「そう?」
「ああ。」
「おばあちゃん。」
 リズが口を開いた。
「……やめてよそんなこと言うの……。」
 リズの目は完全に泣いていた。
「リズ、ごめんなさい。」
 リズの目はまだ泣いていた。
「でもね……私は本当に……もういいのよ。」
「マリア!」
 サンタは叫んだ。
「ほら、そんな大声出さないで。今は夜なのよ。」
「……。」
「……。」
 サンタとリズは黙っている。
「そうだ。」
 突然マリアが何かを思いだしたように手を叩いた。
「サンタさん……お願いがあるんだけど。」

「まだここが残っていたんだ。」
 サンタは懐かしさをかみしめている。
「正しくは立て直されたのよ。」
「へえ〜。」
 マリアとサンタ、そしてリズはビルの展望台にいた。
「懐かしいな。ここでヨハン叔父さんに出会ったんだっけ。」
「そうよ。私を身を呈して守ってくれたヨハン……お父さん。」
「あ、そっか。」
「それから……何年も経ってから……またここにあなたと来て……あれは何年前だったかしら?」
「さあ……?」
「……なんなの?まだ、私の知らない何かあるの?」
「まだ言ってなかったかしら?ここであるカップルがいてね。」
「その日で別れるカップルだったんだが……ある贈り物をしてね。」
「贈り物?」
「ええ。」
「雪をね。」
「雪……?」
「そう。雪をそのカップルに……良い思い出になったでしょうね……。」
「ああ。」
「……サンタさん。」
「ん?」
 サンタはマリアの方を見た時、驚きの声を上げた。
「マリア?」
「……おばあちゃん?」
 リズも驚いていた。
 そこにいたのは……若き日の、マリア。」
「どうしたの?」
「いや、マリア……君なのかい?」
「ええ。何言ってるの?マリアに決まってるじゃない。」
「でも……その姿……。」
「ええ。私が……最初にあなたに出会った日の姿よ。」
「……でもいったい何故……。」
「もう……あと僅かだからかしら……。」
「僅かってまさか!」
 サンタの顔は紅潮しだした。
「そう……もう……お別れね……。」
「おばあちゃん!?」
 マリアの体は少しずつ宙に浮き出した。
「ありがとう、サンタさん。あなたのおかげで幸せな人生でした。」
「マリア……。」
「それじゃ……私は行かなくちゃ……。」
「……マリア……。」
「私は最後にまたあなたから素敵なプレゼントを貰ったわ。」
「プレゼント?」
「ええ。最期の夜にまたあなたに会えたんですもの。」
「……マリア……。」
「そして、リズもあなたに会えたこと。」
「おばあちゃん……。」
「それじゃ……さよなら……。」
「待ってくれ、マリア!」
 サンタはマリアに飛びつこうとした。
「さよなら、サンタさん。あなたは……これからもプレゼントを配っていってね。」
 マリアがそう言い終るとサンタにキスをした。

「……ん……朝?」
 リズは目を覚ました。
「……あれ……?」
 リズは祖母の部屋にいた。
「……!おばあちゃん!?」
 リズは慌てて祖母の顔を覗きこんだ。
 マリアの顔は安らかだった。……少女のようだった。
Merry X’mas For Human & Peace!

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