「ねえ、おばあちゃん、サンタクロースって本当にいるの?」
「ええ、いますとも。」
「じゃあ私の欲しいお人形さんもプレゼントしてくれるかなあ?」
「もちろん。だから早く寝なさい、リズ。そうしないとサンタさんは来てくれないわよ。」
「はーい。」
 そう言うとリズという女の子は自分の寝室へと走っていった。
「……そうか……もうあれからだいぶ経ったのねえ。」
 リズの祖母は窓の外を見つめながらつぶやいた。
 窓の外には高層ビルがそびえている。そのうちの一つは完成してから何十年もたっているビルである。そのビルはこの町のシンボルとして長い間町の人々に愛されてきたビルである。しかし、老朽化には勝てず、もうすぐ取り壊される事になっているのである。
「あのビルに初めて登ったのはこんな……クリスマスの日だったわねえ……。」
 その時不意に電話が鳴った。
「もしもし?お母さん?俺、ニコル。今日も仕事で遅くなるよ。」
 電話の相手は彼女の息子のニコルだった。
「あら、それじゃリズのクリスマスプレゼントどうするの?確かレイラさんも遅くなるって……。」
「え?レイラも?困ったなあ……どうしよう?まあ、明日の朝早くに帰るからその時に……それじゃあ。」
 電話は切れてしまった。
「困ったわねえ……どうしましょう?」
 その時だった。足音が廊下から聞こえてきた。
 リズの祖母は驚いた。
 息子夫婦は遅くなるからと電話があった。リズはもう寝ているはずだ。……ならば……。彼女は緊張した。どうしよう。リズは守らなければ。だとしたら何か武器になるものを……。彼女はそう思いながら近くにあった暖炉の火かき棒を手にした。
 ……どこにいるのかしら……。まさか……もう……。
 その時だった。リズの部屋から物音がした。そして人影が部屋から現われた。
「あ、あなた……。」
 リズの祖母は驚いた。
「おや、久しぶりに見つかってしまったか。」
 そうおどけながら言ったのは赤い服に赤い帽子、それにふかふかのひげを生やしている、
「お久しぶりね、サンタさん。」
「え?ひょっとして……マリアかい?」

「本当、なつかしいわ。」
「ああ。」
 マリアは久しぶりの客人に嬉しそうに紅茶をいれている。
「いつまでここに居て大丈夫なの?」
「いや……実は……ここが最後なんだ、今年は。」
「あら、そうなの?私の時はすぐに出かけていったのに。」
 サンタは照れくさそうに笑いながら答えた。
「あれからここを最後にする事にしたんだ。また、君に見つかってもいいように、ね。」
「まあ、ひどい。」
 マリアも笑っている。
「あれから驚いたよ。一年後に来てみたら君は修道院じゃなく大きなお屋敷に住んでるんだから。」
「あの日……私夢を見ているのかと思ったけどあの叔父さんが私を迎えに来てくれたの。」
「あの、君をかばったあの叔父さんかい?」
「そう、ヨハン叔父さん。」
「そうか……すごいクリスマスプレゼントだったんだね。」
「そうよ。」
 マリアは微笑んでいる。
「あなたがくれたすごいプレゼント。」
「……なるほど。」
 サンタはうなずいた。
「それで?あなたの方はどうなの?あれから何かあったかしら?」
「わしかい?」
 サンタは静かに微笑んだ。
「正直な話……もうやめようと思っていたんだよ。」
「え?」
 マリアの顔は驚いていた。
「私はね、もう虚しくなっていたんだ。毎年……プレゼントを配ってもサンタの存在を信じてくれなくてね。それに、意味はあるのだろうかって……。」
「……そうだったんだ……。」
 マリアの声はさびしそうになった。
「マリア、でも今は大丈夫さ。わしが気づかなかっただけで本当はたくさんの子供たちがわしを信じているってわかったからね。」
「本当?それは嬉しいわ。」
 マリアの顔は笑顔になった。
「そうだ、マリア。君にお礼がしたいんだよ。」
「お礼?」
「ああ、君のおかげでわしはプレゼントを配る事をを続けようと思ったんだからね。」
「……でも……私……。」
 マリアは口ごもっている。
「何でもいいよ、マリア。遠慮する事はないよ。」
「そうねえ……そうだわ。」
 マリアの顔は何かをひらめいている。
「ねえ、あの場所につれていってくれないかしら?」

 ビルの最上階。二人の男女が現れた。
「……ここは何も変わってないね。」
 サンタが感慨深げにつぶやいた。
「でも、もうすぐここも取り壊されちゃうのよ。」
「そうか……。」
 二人は少し寂しげになった。
「……君の家はどこだい?マリア?」
「私の家?……あれじゃない?」
「……ダメだ、よくわからん。」
「あらあら。サンタさんも年をとったのねえ。」
「はっはっは。」
 サンタは声をあげて笑っている。と、
「おや?誰か来たようだ。」
 サンタとマリアは慌てて物陰に隠れた。
「……ねえ、早く。」
 一組の男女が入ってきた。
「……うん、なんかどきどきするね。」
「見て……きれい……。」
 女の方は夜景に見とれていた。
「うん……でも残念だよ、このビルが取り壊されるなんて。」
 その声は寂しく響いた。
「え?」
 サンタが小声を出した。
「ん?何だ今の声?」
 男は周りを見まわした。
「……気のせいかな。」
「……気のせい、よ。」
「そうだよね。……あのさ、やっぱりこのビル壊しちゃうの?」
「うん……残念だけどね。」
「そっか……。」
 二人の周りを寂しい空気が包んだ。
「……。」
「……なあ、ローラ。俺達もう一度やり直さないか?」
「……ポール……。」
 その後、二人は黙っていた。
「……行こっか。」
「あの。」
 二人の後ろから暖かい声がした。
「……始めまして、サンタクロースと申します。」
「はあ……。」
「失礼ですがお二人は恋人同士なんですか?」
「……ええ、今日限りですが。」
「今日限り?」
「僕ら今日で別れるんです。」
「ほほう。」
「それで最後の思い出にしようって彼とここに来たんです。」
 ローラは伏目がちに答えた。
「……最後の思い出ですか……。ならば……私もサンタです。そんなお二人にプレゼントをさし上げましょう。」
 そう言うとサンタは指を鳴らした。
「……雪?」
雪

 ビルの最上階に雪が降りだした。
「そんな、信じられない。あなたは一体……。」
「言ったでしょう、私はサンタだと。」
 そう言うと再びサンタは指を鳴らした。するとサンタの姿は消えてしまった。
「あれ?あれ?今のおじいさんはどこに……?」
「……本当のサンタクロース……?」
「だったのかな……。」
 部屋の中には雪が降っている。そしていつしかビルの外にも雪が降り始めた。

「お疲れ様、サンタさん。」
 マリアとサンタはマリアの家に戻ってきた。
「今年もいろんな人にプレゼントを与えたのね。」
「ああ……あの二人……素敵な思い出になってくれたらいいね。」
 マリアは微笑みながら紅茶を入れている。
「さてと。私もそろそろ帰らなくては。」
 サンタがポツリとつぶやいた。
「あら。もうそんな時間?」
「ああ。もうすぐ朝になっちゃうからね。」
「紅茶だけでも飲んでいってよ。」
「そうだね……。一杯もらおう。」
 マリアは紅茶を運んできた。
「あの……サンタさん来年もちゃんとプレゼント配ってね。」
「もちろん。」
「今だから言うんだけど……。」
「何だい?」
「私の初恋ってあなたなのよ。」
 マリアはちょっと顔を赤らめている。
「本当かい?」
 サンタは驚いた顔をしている。
「ええ。ねえ……またキスしてもいいかしら?」
「……ああ、いいとも。」
 そしてマリアはサンタにキスをした。

 翌朝。
「お母さん、リズの枕もとのあれ……。」
 帰ってきた息子のニコルがマリアに尋ねた。
「あれ?当然サンタクロースが置いたに決まってるじゃない。」
「え?」
「そう、クリスマスにプレゼントを配るのはサンタでしょ。」
 そうマリアは言った。
「……そうだね、母さん。」
 ニコルも微笑んでいる。

 来年もサンタさん来てくれるかしら……?
 世界中のみんなへMerry X‘mas!

〜END〜


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