「おはよーめぐみさん。」
「あ、おはよ、清水くん。」
 いつものように大学に向かっていたらめぐみさんに会った。
「あれ?清水くんバンダナ変えた?」
「ええ。昨日100円ショップ行ったら安いのがあったから。」
「へえー。」
 オレはいつもバンダナをつけている。なぜつけてるのか、って言われても理由はあまり無い。ただ何となく気に入ってるからというのが理由だ。
「あ、そうだ清水くん。聞いた?高橋くんがまたフラれたって。」
「え?また?」
 高橋くんというのもオレの友達。オレとめぐみさんと高橋くんはなぜか仲が良くてよく一緒にいるのだが、
「たしか1週間前にもフラれたんじゃあ。」
「うん、それからまた新しく好きな子ができたんだけどすぐにフラれちゃってね。」
「早いなー。」
「まあフラれるのはいつものことだからいいんだけど。」
「でもこれで何人目だっけ?」
「え〜と高校の時から付き合ってた彼女にフラれてから…10人以上はいるでしょうね。」
 高橋くんはどーいうワケなのか女運が無い。もっとわかりやすく言うとモテない。
「また落ちこんでんのかなー。」
「多分そうなんでしょうね。さ、とっとと授業に行こっか。」

 教室に入ると高橋くんがもう来ていた。
「あ、おはよー高橋くん。……あれ?」
 高橋くんはけっこう元気そうだった。
「おはよー、二人とも。」
「う、うんおはよう……。」
「あのさ、聞いてよ。俺好きな子ができてさー。」
 オレとめぐみさんは目をあわせてうなずいた。
「いやさー昨日たまたま学校に来てたらさーカワイイ子がいてさー目があっちゃたんだよー。」
「ふーん。」
「それでさー明日にでも告白しようと思うんだよ。」
「え?明日?」
「それっていくらなんでも早くないの?」
「いやいや、こーゆーのは勢いが大事だと思うんだ。」
「…ふーん。」
 めぐみさんはどうでもいいやって感じな声を出した。
 その時授業のチャイムが鳴った。
「さ、授業授業。」
「準備準備。」
「なんだよーもっと聞いてくれても良いだろー。」
「おはようございます。」
 マイクを通して浅羽教授の声が聞こえてきた。
「じゃ、今日も授業を始めます。」
 この浅羽教授、けっこう人気のある先生で授業もおもしろいんだけど、
「しかし最近はけっこう嫌な事件が多いですね。これも社会全体が激ムカなせいなんでしょうか。本当にチョベリバだっちゅうの、そんなの聞いてないよーですねー。」
 ……死語が多い。これさえなきゃ言う事無しなんだけどなー。ちなみにめぐみさんとはけっこう仲が良いらしい。
 この日の授業も「チョベリグ」とか「肝」だとか「ナウい」とか半端じゃなく死語が使われてた。たまに意味がわかんないのもあるんだよなー。

 授業が終わって帰ろうとするとめぐみさんと高橋くんが一緒に立っていた。
「あれ?二人ともどうしたの?」
「あ、清水くん。あのね。」
「明日告白するので協力をお願いしてたんだ。」
 明日告白するって本気だったんだ……。そんな事を思っていたら
「もちろんお前も協力してくれるよな。」
「え?」
「友達じゃないか、頼むよ。」
「いや、でもオレは明日用事があるから……じゃ。」
「あたしも……忙しいから帰るね。じゃね。」
 オレはそのまま走りだして帰った。めぐみさんも急いで帰ってしまった。あとに残された高橋くんはどう思っているのやら。

 翌日、教室に入るとめぐみさんがいた。
「おはよーめぐみさん。」
「あ、清水くんおはよー。」
「どうなりますやら、高橋くんの告白。」
「あ、そのことなんだけどさ。今日の4時半ごろに告白するつもりらしいよ。」
「本当?」
「うん。昨日本人が言ってたから。……見物しに行かない?」
「もちろん。」
 そんな事を言っていると教授が入ってきた。実はこの教授、カツラだって噂がある人物。そういやなぜかオレの事をあまり気に入っていないみたいで質問しに行ってもなんだか避けられてるんだよなあ。なんでだろ?

 その日の夕方、午後4時半ごろ。オレとめぐみさんは学食の片隅にいた。
「……遅いわね。」
「ですね。」
 高橋くんはまだ来ていなかった。
「告白する前に玉砕したのかな?」
「……ありえますね。」
 そんな無責任な事を言っていると、
「あ、来た、あの子よ。」
 突然めぐみさんが声を小さくした。めぐみさんが指差した方には一人の女の子、利発そうなショートカットの女の子で
「高橋くんのタイプそのものですね。」
「でしょ?私もそう思うのよ。」
「あ、高橋くん。」
 高橋くんが学食にやって来た。
「あ、ごめん。待った?」
「ううん、今来たところだけど…何の用?」
 高橋くんの目は泳いでいた。そして顔は真っ赤だった。オレは何気なく
「……緊張してるね〜。」
 と言うと
「あれじゃまたダメかな?」
 と、めぐみさん。
 高橋くんはオレら二人のことなど全く気づく様子は無かった。
「実はオレ、君の事が好きです。付き合ってください。」
 高橋くんはものすごい緊張しながらも告白した。そして気になる彼女の答えは、
「……。」
 彼女は少しの間黙っていた。そして軽く微笑みながら口を開いた。
「ありがとう。」
 その瞬間、高橋くんの顔は輝いた。でも、
「ゴメン。私高橋くんとは付き合えない。」
 高橋くんの顔が一瞬にして凍りついた。
「私……実は。」
 と言って告白相手は左手を高橋くんの目の前に出した。……と言う事は……。
「結婚してるんだ♪」
 告白相手は明るく言った。
「それじゃ、本当にゴメンね高橋くん。」
 そう言うと告白相手は学食から出ていった。
「…………。」
 高橋くんはまだ固まっている。無理もない、結婚してると知らずに惚れてたらそりゃ……。ある意味、告白前に玉砕してたのは当たってたわけだ。
「ねえ、清水くん。」
 めぐみさんがオレに話しかけた。
「あれは……また落ちこむわね……。」
「まちがいないでしょう。」
「どうする?」
「まあほっといてもいいんですが…ここはやはり。」
「残念会、か。」
「料理が得意なめぐみさん、期待してますよ。」
「はあ。仕方ないわね。」
 オレらは高橋くんに声をかけに行った。すると、
「あれ?お前ら?」
「いや〜残念だったわね。」
「ま、くじけんなって。」
「ずっと見てたのかよ。」
「気にしない気にしない。」
「そ、今日は残念会。私が腕によりをかけるから期待してなさい♪」
 オレらはそのまま高橋くんの家に行って残念会をした。
 はっきり言って高橋くんは酒が入った事もあって号泣してた。いったいこの男は何回号泣すれば彼女ができるのやら。
 でもオレはそんな高橋くんも、なんだかんだ言って心配してためぐみさんも好きだ。この二人とは大学だけの付き合いかどうかわからないけどできることなら一生仲良くなっていきたいな〜、なんて。
 それにしても本当に今日は高橋くん荒れてるな〜。

とりあえず、END


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