はあ。次はあの店か。いったいあの店はなんなんだろうか。売上が低いのはまあいいが。……いやよくないな。こういうのもなんだがあそこって結構立地条件はいいはずだぞ?駅からは近いし大学や高校など学校も近くにあるんだ。何故だ……?やはりあの店員たちに原因があるのか?あの線目はともかくトゲトゲ頭の方はなぁ……。いったい店長もどんな教育をしてるんだが……。はあ、考えても仕方がない。そうこうしているうちに到着か……ん?

「おや。協配の最中でしたか。」
 ぶんぶんの店内にSVである宇伊田院が現われた。
「あ、こんにちは宇伊田さん。」
 レジのところには麦千代がいた。そしてそのそばには。
「ちはーすっ。」
 協配のおっちゃんがいた。
「こんにちは、ごくろうさまです……トゲトゲ頭はどうした?」
「らいとなら今日は休みですよ。」
「休み?」
「ええ、なんでも歯が痛いそうで。」
「ほほう。」
「もうしばらくかかりそうなんで待っててくださいね。」
「わかった。」
 そう言うと宇伊田は店内を見渡した。

 そうか……あのトゲトゲ頭は休みか。どうりで今日は店の中がきれいに整頓されて入るはずだ。しかし歯が痛いからって休んだ奴は初めて聞くな。まあいい。あんなの居なくても店の売上にはさして影響はないだろう。いやむしろプラスか?はっはっは……あ。

 いつのまにやら宇伊田は声に出して笑っていた。
「宇伊田さん?」
「どーしたんだい?悩み事か?」
 麦千代と協配のおっちゃんはあっけにとられた顔をしている。
「い、いや何でもないっ!ほ、ほら早く納品を終わらせろ!」
 宇伊田はそう言うと咳をした。

 ……迂闊だった。まさか声に出して笑っていたとは。はあ。……しかし……よく見る客がいるな。あの女連れのメガネ……たしか前は一人で来てたよな。横にいる女は彼女なんだろうな、やっぱり。……ん?何の会話だ?なになに……『今日は私が夕食作るわね。』……おお、普通の会話だな。『前みたいにタバスコを山のように入れないでよ。』?は?タバスコを山のように?何言ってるんだあいつは?『やあね。入れるわけないじゃない。あの時は辛いのが好きだと思ったから……。』。おいおい、泣きそうだぞ。『そ、そうだね。ゴメン。』。そうそう、素直に謝らないと。『じゃ、もうちょっと時間がかかりそうだから雑誌でも読んで待ってて。』。おいおい。『わかったよ、ぐりこ。』。『すぐ終わるからね。』。おいおい、すぐだったら一緒でもいいなじゃいのか?……ん?あれは……砂糖だな。隠し味か。……おいおい、なんで2袋も砂糖がいるんだよ……。え?3袋?4?5?6?7……。

 ぐりこは普通にレジへ向かった。
「いらっしゃいませー。」
 ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ……。
「はい、全部で6'510円でーす。」
「はい、じゃあ10'000円と…10円で。」
「はい、お釣の4'500円です。」
「はーい。」
「またどーぞー。」
 その時、雑誌コーナーから木村野がやってきた。
「終わった?」
「うん。さ、早く行きましょ。」
 そう言うと木村野とぐりこは店を後にした。
「……?」
 宇伊田はまだ理解できない顔をしている。
「戸惑っているようですね、宇伊田さん。」
 そんな宇伊田に麦千代は声をかけた。
「ん?いやそんなことは……。」
「あの人、前もタバスコ何本も買い占めていったんですよ。」
「え?」
「だいたい想像つくでしょ?」
「まあな。」
「そういうことです。」
「そうか……。」

 ……世の中には変わったカップルもいるもんだな。うーん……ん?なんだ、あの女子高生の二人組は?……たしかあのちっちゃいのはトゲトゲ頭の妹か。今日は廃棄品は漁ってないだろうな。しかし……二人で入るってことはもう一人は友達なんだろうな。しかしなあ。コギャルねえ。……?何してるんだ?『ねーねーこの店いつも思うんだけどー。品揃えダサいよねー。』?……うーん、そうだったのか。少し品揃え考えないとダメだな。『そうかにょ?』『そうよー、りんぐー。』『にょ〜。』『だいたい店長がおば……!』。……?なんだ、どーした?

 宇伊田が見るとえりあが倒れていた。
「なにぃっ!?」
 宇伊田は慌ててえりあの元へ駆け寄った。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「あー宇伊田さん、ちょっと退いてくださいね。」
 後から麦千代がやってきた。
「お、おい、早く救急車を……。」
「大丈夫ですよ、いつものことですから。」
 と、やけに冷静な麦千代は手馴れた動作でえりあを店の外へと運んでいった。
「ふう。」
「お、おい大丈夫なのか?」
「ええ。」
「でも急に倒れたのにだな……。」
「原因はわかってますから。」
「え?」
 宇伊田が戸惑った表情になった。
「どういう……!」
 突然宇伊田は殺気を感じて振り返った。そこには
「!?」
 スタッフルームの隙間から覗いている光があった。しかしその光はすぐに消えた。
「…………。」
 宇伊田が唖然としていると
「あれです。」
「こわいにょ〜。」
 麦千代とりんぐが声をかけてきた。
「あれ……とは?」
「店長です。」
「え?」
「店長、たま〜にああやってあのコギャルをやっちゃうんです。」
「……客に対してか。」
「はい。」
「……。」
 宇伊田は何か言いかけて、やめた。
「では、僕は納品作業に戻りますね。りんぐちゃんはどうするの?」
「そろそろおにいちゃんが帰ってくるから家に帰るにょ。」
 そう言うとりんぐは店を後にした。

 ……ここの店は客を攻撃するのか……。しかしあの光は怖かったな。ここは店員に問題ありかと思っていたが店長も店長だな……。それにしてもここは客もいろんなのが揃っているんだな。なんとなくだが売上が低い理由がわかった気がするな。……そういやもう一人常連らしき客がいたな。何回か見ただけだが……あの丸坊主の学生。今日は来てないみたいだな。

「はい、そんじゃサインと判子お願いします。」
「あ、はいはい……。」
「はい、確かに。」
 そう言って協配のおっちゃんは店を後にした。
「宇伊田さん、終わりましたよ。」
「お、そうか。」
 宇伊田はレジのそばへとやってきた。
「しかしここの店は店員も店員なら客も客だな。ところで……あの丸坊主の学生はどうした?」
「最近見てないですね。」
「ほほう。」
「骨折したらしいです。」
「……何故お前が知っている?
「前彼のお母さんが店で話してたんですよ。」
「なるほど。」
「なんでもビルの屋上で凧揚げしてたらおっこちたとかで。」
「……なんでまた屋上で凧揚げを。」
「店長に言われたそうです。」
「……。」

 ……ここは店長が一番問題だな。……どうやったらこの店は売上が伸びるんだか……。おそらく一番難しいんだろうが……それでこそ、私も遣り甲斐があるというものです。見てなさい、午後乃店長とその愉快な仲間たち!

E・N・D