昔、あるところに不思議な場所がありました。そこでは海と山が同時に見える場所で、そこから山に向かって元気な声を出すと、
「ヤッホー!」
「ヤッホー!!」
と、元気な山彦が返ってくるのです。しかしそんなある日、一人の村人がその場所にやってきました。
「あ〜今日もしんどかった〜。こういう時は海に向かって叫ぶと気持ちいいらしいな〜。」
この村人はどうやら勘違いをしているようでした。
「せ〜の、バカヤロー!」
と、海に向かって叫びました。すると、
「何だとー!!!」
なんと、海の精が怒ってしまいました。その時から、海は荒れ始めました。
「あわわ、どうしよう。」
村人は急いで村に帰りました。
「みんなーたいへんだー!」
その村人が村に帰ってくるとすでに村人達は集まって話し合いをしてました。その村人が帰ってきたのを村長は見つけ、声をかけました。
「おお、戻ったか。いったいこの海の荒れようはどうした事じゃ。」
「じ、実は……。」
その村人はみんなに事情を話しました。すると、
「ふ〜む、なるほど。海の精を怒らせてしまったのか。ならば海の精と仲の良い山彦様に相談しよう。」
そして村人達はみんな揃って山彦に相談しに行きました。
「山彦様。御相談したい事がございます。」
村長は山彦に事情を説明しました。すると山彦は、
「海の精はいつも私にばかり元気な声をかけられるのをうらやましがっていたのです。そしてついに元気な声をかけられる時が来た、そう思ったら『バカヤロー』。だから怒ったのです。」
「どうすれば怒りはおさまるのでしょうか。」
「元気な声で海の精を呼ぶのです。そうすれば怒りはおさまるでしょう。」
村人達は元気な声で海の精を呼びました。
「海の精―!!!」
しかし海の精は姿をあらわしません。
「どうしよう……。」
村人達は困ってしまいました。その時、最初に原因を作った村人がある案を思いつきました。
「そうだ、歌ならどうだろう?」
「歌?」
「そう歌。それなら自然と元気な声になるはずだ!」
そして、村人達は歌い始めました。その歌声は近隣の村にまで聞こえ、そこの村人達も一緒になって歌い始めました。そしてその歌声は同じようにしてさらに近隣に広がり、ついには国中に届きました。そして国中に歌声が流れていたその時、海から海の精が現れました。
「わかったわかった。お前達の歌声が元気だから許してやろう。ところで、そこのお前。」
と言って原因を作った村人を指差しました。
「もう、バカヤローなどと叫ぶなよ。」
「あ、ありがとうございます、海の精様!」
こうして海は穏やかになり、村に平和が戻ったそうな。めでたしめでたし。
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