「ただいまー……あれ?」
 僕、深津翼太が家に帰ると誰もいなかった。
「おかーさん……?」
 家にはおかーさんの姿はない。
「ん?」
 と、メモがあるのを見つけた。
『松本さんの家に行ってます。』
 おかーさんの字だ。よし、迎えに行こう。

 松本と言うのは僕の同級生の奈央のこと。おかーさんは奈央のおばさんと仲が良い。だからしょっちゅう会ってるみたい。あ、和彦のおばさんとも仲がいいらしい。よく三人で集まっては何かしてる。ただ、昼間からビールを飲んで三人そろって酔っぱらうのだけは何とかしてほしい。息子ながら、あきれてしまう。ま、おかーさんの場合もっとあきれることがあるんだけどね……。

 ぴんぽーん。
「あれ?翼太じゃない。」
 奈央が出てきた。
「もうおばさんならいないわよ。」
「えっ?」
「何でもおじいちゃんのところへ行くって。」
「あー……。」
 おかーさんと入れ違いになってしまった。ということはじいちゃん家にいるのか……。
「これから迎えに行くの?」
「ああ。」
「私も一緒に行っていい?」
「えー何でだよー。」
「一度見てみたかったのよ、翼太のおじいちゃん。あのおばさんの親だからさぞかし……。」

 そんなわけで奈央と二人でじいちゃんの家へ。
「あのさ、奈央。」
「何よ、翼太。」
「おかーさんは奈央の家に何しにいったんだ?」
「なんでもお母さんがお菓子の作り方を教えて欲しいって。」
 うちのおかーさんは料理上手でいろんな物を作ってくれる。ただ、たまに……いやしょっちゅうとんでもないメニューを作ってくるんだ。このあいだはボール型おにぎりを作るって言ってボーリングのボール型おにぎりを作ってた。見た目がそっくりなのはいいとして、固さまでそっくりにする事無いと思うんだけどなぁ……。
「おばさんが来たのはいいんだけど……。」
「えっ?また何かやったの?」
「ドーナツ作ってたんだけどね……。」
 奈央の顔がちょっとせつない顔になった。あれ?なんでドキドキするんだ……?
「最初のうちは普通に作ってたのよ。」
 何だか顔が赤くなってきた。な、なんで……?
「おばさんが『じゃあ、浮き輪みたいに真ん中をくりぬきまーす。……浮き輪……。』って。そしたら突然たくさん小麦粉を混ぜ始めたのよ!そしたら『浮き輪みたいな大きさのドーナツって作れるんですかね〜(はあと)』って!本当に浮き輪ぐらいの大きさのを作り始めたのよ!」
「ぷ―――――っ!」
 思わず吹き出してしまった。
「笑い事じゃないわよ!上手く完成すれば良かったんだろうけど中は生焼け、外は黒こげっていう失敗作で……。」
「あははっ。うちのおかーさんらしいや。」
「じゃあ翼太、食べてみる?まだうちにあるわよ?」
 そう言った奈央の顔は笑ってなかった。こ、こわ〜。

「ついた。ここだよ、じーちゃんち。」
 僕と奈央はじーちゃんちの前に来た。
「……15時30分。ちょっと時間かかるのね。」
 奈央は腕時計を見ながら時間を確認している。
 僕がチャイムを押す。
「だれじゃー?」
「じーちゃん?ぼく、翼太。」
「おおっ!翼太かー。しばらく見んうちに大きくなったのー。」
「え?見んうちにって……まだインターフォン越しでしょ?」
「翼太。上じゃ上。」
 そう言われて上を見上げた。
「じ、じいちゃん!?」
 僕が見上げると電信柱からじいちゃんがこっちを見下ろしてた。
「ほっほっほ。驚いたか。」
「お、おどろいたけど……何やってんの!?」
「ん?いや何、こっから翼太のうちは見えないかと思ってな。」
「み、見えるわけないだろ、じいちゃん!危ないからおりてきなよ。」
「そうか?よっこらしょっと。」
 そう言いながらじいちゃんはおりてきた。
「急に来た客のためにインターフォンを持っておいて正解じゃわい。」
「想像以上のおじいさんね。」
 奈央があきれた声を出した。
「んー?こっちのめんこい子はだれじゃ?」
「めんこいだなんてそんな……。」
「じ、じいちゃん、別にかわいくないよ。学校でしょっちゅうどなられてるのに……。」
「それは翼太が悪いんでしょ!宿題を忘れたからって見せろって言ってきたり、掃除サボったり……。」
「い、言うなよ!奈央!」
「まあまあ、夫婦喧嘩はそれぐらいにして……。」
「「だれが夫婦だっ!」ですかっ!」
 僕の顔は真っ赤になってしまった。
「これこれ、二人ともそんなに顔を真っ赤にせんで……。」
「誰のせいだと思ってるんですかっ!」
「そうだよ、じいちゃん!」
「ところで……二人はいったいなんの用でここに来たんじゃ?」
「あ、そうだ。おかーさん来てない?」
「いや……来とらんがのー。」
「あれ?奈央、本当にじいちゃんちに行くって言ってたのか?」
「ええ。」
「じゃあどこかで入れちがいになったのかな……?」
「どうする、翼太?」
「……探しに行ってくる。じいちゃん、またね。」
「そうかー帰るんか。また今度なー。」

 ぼくはおかーさんをさがしてあちこち行ってみた。
「ここにもいないわね、翼太。」
「うん……。」
 ってあれ?
「なんで奈央がいるんだ?」
「え?面白そうだから。」
「……。」
「でも、もう五時回ってるわよ。」
 奈央の腕時計を見た。たしかに五時を回っている。
「ねえ……帰らない?」
「え?」
「もうおばさんも帰ってるんじゃない?」
「うーん……。」
 奈央にそう言われたので帰ることにした。

 家の前。おかーさん帰ってきてるかな。ドアノブに手をかけた。
 ガチャ。
 開いてる。ということは……。
「ただいまー。」
「おかえりー(はあと)」
 おかーさんは帰ってきてた。
「どこいってたのー?」
「それはこっちのセリフだよ。いったいどこ行ってたの?」
「松本さんちにお邪魔してから……ネコさんが道にいてね。さっきまでいっしょにお昼寝してたの〜(はあと)」
「おかあさんらしいや。」
 ぼくは何となくホッとした。
「あ、そうだ。おみやげがあるの〜(はあと)」
「え!?おみやげ!?」
 ぼくは思わず飛びあがってよろこんだ。
「はい、ドーナツ♪」
「え。」
 ぼくの前に出てきたのは
「何これ……?」
「え?ドーナツだけど?」
「だってこれ……。」
 ぼくの前に出てきたのは真っ黒こげの浮き輪ぐらいの大きさの……ん!?
「松本さんちで作ってみたんだけど上手くいかなくて〜。せっかくだら翼太食べて(はあと)」
「え、え、ええっ!?」
 これは……いくらぼくでも……。」
「あ、そ、そうだ。おとーさんにあげたらどうかな?きっとよろこぶよ。」
「あらそう?」

 その夜、おとーさんの悲鳴が家中にひびいたのは言うまでも無い。
 ゴメン、おとーさん……。

END


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