「……はあ。」

 みるく店長はため息をついた。

「本当に出会いがないのよね……。」

 月曜日の早朝、コンビニぶんぶんにて。みるく店長は一人でレジに立っていた。

「イイ男のお客さんが来ても慌てて逃げ帰っちゃうし……。」

「おはよーございますにょ♪」

「あら?りんぐちゃんどうしたの?」

 みるく店長がぼやいていると須布りんぐが店を訪れた。

「学校へ行く前のお買い物にょ。」

「そうなんだ。」

 りんぐとみるく店長が話していると

「いらっしゃいませー♪」

 今度は四人の男性客が店を訪れた。

「……あら?」

「にょ?」

 四人のうち一人はデジカメをまわしていた。

「テレビのロケかしら?」

 また、一人は頭がもじゃもじゃの男。一人はヒゲを生やしてメガネをかけた男。そして一人は

(イケメン来た!)

 みるく店長の顔が輝いた。

「じゃじゃじゃあ、この店で探しましょう。」

「この店にありますかね?」

「無いと困るでしょー、大泉さん。」

「なんで予備を用意しとかないんだよ!」

「お前が寝てる間につぶすからいけねえんだろ!」

「うるっせえよ!」

 大泉と呼ばれた男とヒゲと呼ばれた男が口論している。

「ちょっと二人とも。一応お店の中なんだから静かにしないと。」

「うるさいよミスター。だいたいミスターがはかた号なんか出すからいけねえんだろっ!」

「なんだよオレのせいかー?」

「あ、あのお静かに願いませんか?」

 たまらずみるく店長が声をかけた。

「あ、すいません……。」

 そう言うと四人の客は静かになった。

「……?」

 みるく店長は四人を見ながら首をかしげた。

「と、とりあえず探しましょう。」

 ヒゲの男がそう言うと四人は店内を探し始めた。

「ねえねえりんぐちゃん、あの人達見た事ある?」

「ないにょ。店長さんは?」

「私も無いんだけど……。」

 そう言いながらみるく店長はミスターと呼ばれた男を見ていた。

(……いったい誰なんだろう。)

 そうみるく店長が思っているとミスターがレジに向かってきた。

「あのーすいません。」

「は、はい。(ドキッ)」

「この店にサイコロキャラメルってありますかね?」

「は、はい。こちらの方に……。」

 そう言いながらみるく店長はお菓子の棚へとミスターを案内していった。

「え〜と?」

「ここです。」

「あ〜ありましたね、藤村さん。」

「ありましたか!」

 ミスターの呼び掛けに藤村と呼ばれたヒゲの男は大きな声でこたえた。

「ええ。とにかく早く買わないとラジオに間に合わない……。」

 そう言うとレジへと四人とみるく店長は向かって行った。

「あ、あの〜つかぬことお聞きして良いですか?」

「はい?」

 みるく店長はミスターに尋ねてみた。

「みなさんはテレビか何かですか?」

「ええ、そうなんです。」

 ミスターの代わりに藤村が答えた。次に大泉が

「僕ら『水曜どうでしょう』っていう番組なんです。僕『大泉洋』っていうんです。『千と千尋』見た事ありますか?」

「あるにょ!」

「僕それのね、番台蛙の声やったんですよ。」

「ええ!?」

 みるく店長とりんぐちゃんは揃って驚いた。

「すごいにょ!」

「で、僕が『鈴井貴之』と言います。映画監督なんです。」

「ええ!?」

 ミスターと呼ばれた男が映画監督であることにみるく店長は驚いた。

「で、僕とこっちでカメラ回してるのがディレクターなんです。」

 今度は藤村が喋り出した。

「本当にね、ダメディレクターでね。バカな事ばっかり考えてるんですよ。前もね、夏野菜で料理作るとか言ってたら、やれ野菜作るだ、やれ皿焼くだ、ってひどいんですよー。」

「じゃじゃじゃあ言うけどさあ、お前だってパスタ作るのに朝9時に入って出来たの夕方の4時ですよ。」

「ま、まあ二人とも……しばらく休んでたんですけどね、またやりはじめたんですよ。」

「そうなんですか。」

「で、今やってるのがサイコロの旅って言いまして。あのーこのサイコロキャラメルをですね、振りまして……。」

「振るんですか?えいっ!」

「あっ!」

 みるく店長の手からサイコロが飛んでいった。

「嬉野さん、サイコロどこ行きました?」

「探さないとまずいぞ、これ!」

 四人とみるく店長とりんぐちゃんは慌ててサイコロが転がって行った方へと向かった。

「ど、どこだ?」

「うれしー撮ってなかったのか?」

「いや、見失った。」

「す、すいません……。」

「あ!あったにょ!」

 りんぐちゃんが声を上げた。

「おーありましたかー……。」

「『6』が出てるにょ。」

「6ぅ!?」

「ふ、藤村さん6って何でしたっけ?」

「6は……えーと……『6:視聴者サービス愛媛』だね。」

「愛媛!?」

 大泉が驚きの声を上げた。

「愛媛かー……これは間に合わないかもしれないですね。」

「え?いやいやこれはこのお姉さんが出したから無効でしょ?」

「サイコロは『6』です。愛媛に行きます。」

「え〜行かないよぉ!」

 そう言うとミスターは座りこんでしまった。

(ええっ。座りこんだ……。)

 それを見てみるく店長は少し驚いている。

「ほら早く行かないとミスター、間に合わないですよ。」

「そうですよミスター。急がないと……。」

「やだよ〜行ったら間に合わないよ〜。」

(男らしくない……)

「ほら、早く……。」

「だって俺が出したわけじゃないのに……。」

 そう言うと大泉はミスターを外へ連れてってしまった。その様子をずっと撮っている嬉野も外へと出ていった。

「す、すいませんね。」

 そう言うと藤村も外へ行ってしまった。

「……。」

「なんだったんだにょ……。」

 りんぐちゃんが思わずつぶやいた。

「ああ〜。」

 みるく店長が明らかにがっかりした顔になった。

「今度こそと思ったんだけど……。」

「だ、大丈夫かにょ?」

 りんぐちゃんが慌ててみるく店長をなぐさめた。

「……やっぱり仕事に一生懸命になるしかないのかな〜。」

「お、おはよーございまーす。」

 そこに興奮気味の麦千代が現われた。

「あ、おはよー麦千代君。」

「おはようだにょ!」

「おはようりんぐちゃん。……店長見ました?」

「え?何が?」

 麦千代はまだ興奮している。

「さっきそこで『水曜どうでしょう』やってたんですよ!ミスターが駄々こねながら連れてかれたんですけど……。」

「さっき来てたんだにょ!」

「ええっ!?」

 りんぐちゃんの言葉に麦千代が驚いた。

「お、大泉さんやミスターが来てたんですか!?」

「……。」

 麦千代の問にみるく店長が声を出さずにバックルームへと消えて行った。

「て、店長?」

「それじゃ麦千代さん、学校行ってきまーす♪」

「あ、いってらっしゃいりんぐちゃん。……店長?店長?」

 結局その日は麦千代の問いかけに店長が答えることは無かった。

 それからしばらくして。

 「水曜どうでしょう」の放送に「ぶんぶん」でみるく店長がサイコロを投げたシーンが放送されるのはまた別のお話

 それから、ミスターこと鈴井氏が結婚して娘がいるという事もまた別のお話。

END


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