山

 丘の上には風が吹いていた。丘の向こうには高くそびえる山が見える。
(……いつからここに立っているんだろう。いつからあの山を見つめているんだろう。)
「おーい。」
 丘の上に立つ一人の青年の後ろから声がする。
「おーい。どうしたんだ。やっぱり緊張するのか?」
「うるさいよ、スーズ。」
 スーズと呼ばれたこの男―本名をスーズレップ・ナルーハ・カィリジアというのだが、あまりにも名前が長く言いづらいためスーズと呼ばれているのである―は腰に携えてある剣の鞘を撫でながら微笑んでいる。
「ま、しょうがないか。いよいよだもんな。」
「ああ。」
 丘の上に立つ二人の青年はその場に腰を下ろした。
「長かったな。」
 スーズがどこを見るでもない視線をしながら話し始めた。
「ああ。」
「いつからだっけ。この旅が始まったのは。」
「えーとあれは……。」
「おーい、二人共ー、何してんのー?」
 また一人、丘の上にやってきた。
「私をのけ者にして、何話してたの?」
「いや、別にヨミナをのけ者にしてたわけじゃないけど。な、スーズ。」
「そうそう、ヨミナが女の子のたしなみ、とか言ってたからじゃないか。」
「しょうがないじゃない、私だっていろいろあるんだから。」
 そう言って腰を下ろした女性―本名をアキヨミナ・キエロヒ・カッフと言い、実は剣士なのだが―は、自分の長い黒髪をかきあげた。
「で、何の話をしてたの?」
「いやこの旅はいつから始まったのか、って話。」
 スーズは答えた。
「だいぶ前だもんね。」
「ああ。」
 そして、最初にこの丘にいた男―ギツルミ・カートモ・ラッソ、通称ギツ―はこの二人と最初に会ったころのことを思い出していた。


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