空に雲はほとんど浮かんでいなかった。気持ちいいぐらいの青さだった。
「ああーいい空気だ。」
ギツが先頭に立って気持ちよさそうに深呼吸している。
「これから……どうする?」
ギツは後ろを振り返った。そこにはヨミナとスーズが並んで立っている。
「どうするって?」
「どういうこと?」
ギツはまた前を向いて―つまりヨミナとスーズとは逆方向を向いて―上を向いた。
「いや、これからどこ行こうかってことだよ。」
「あ、そうか。」
「私はお義母さんのところに帰ろうと思ってるの。後を継ぎたくなっちゃったんだ。」
「後?」
ギツはまだ二人とは反対側を向いている。
「うん。またいつか……魔王が現われた時に占いで手助けしてあげたいんだ。」
「なるほど。ところで……お前らやっぱり一緒に暮らすのか?」
ギツがそう言うとスーズとヨミナは顔を赤らめた。
「お、おい……。」
「なんだ、お前まだ言ってなかったのか?ヨミナに好きだって。」
「お、お前ばらすなって言ったろ!」
スーズがムキになった。
「え……スーズも私のこと……?」
ヨミナは目を見開いている。
「ま、お前ら二人とも両思いなんだし、どっかで落ち着いたほうがいいんじゃないか。しっかしなあ……てっきりあの晩に言ったと思ってたんだけどな。」
「……ギツ、ちょっと向こうに行っててくれないか。」
ギツは何も言わずその場からちょっと離れたところへ歩いて行った。
「あのさ。」
スーズはヨミナの手をとった。
「俺、ヨミナの事が好きなんだ。俺と……結婚してくれないか。」
「……うん。」
ヨミナは一言そう言うとスーズに抱きついた。
「もういいかー。」
ちょっと離れたところからギツの声がする。
「ああ。ありがとうな、ギツ。」
ギツが走りながら戻ってきた。
「そういやお前はどうするんだよギツ。俺らはひとまずヴィルカナ国へ帰るけど……。」
「私ですか?私はもうちょっと旅を続けます。魔法の修行をやりたいんだ。それが一段落したら……ヴィルカナに帰ろうと思います。二人の子供も見てみたいし。」
「こ、子供ってね。」
「いくら何でも気が早いよ。」
ヨミナとスーズは面白いように焦っている。
「それじゃあ……ここでいったん別れようか。その方が便利だろうし。」
「……いや。それじゃああまりにも寂しいだろ、ギツ。」
「そう。もうちょっとだけ三人で……ね。」
ヨミナはウインクした。
「もうちょっと……か。そうだね、前の町まで……いや、マヤナカまで一緒に行こうか。」
スーズ、ヨミナ、そしてギツの三人が歩き始めた。
三人にとってとても大事な、この旅をひとまず終えるための短い旅を歩き始めた。
〜END〜
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