俺は暗闇の中にいた。いつからいるか……もうだいぶ前からいるもんだから覚えちゃいない。
 俺がこの中にいる理由ははっきり覚えている。あいつだ。あの魔女が俺を……。
「!?」
 突然俺は光の中にいた。そして、光の向こうには女性が立っていた。

「はあ。」
 若い女性はため息をついてベッドに寝転がった。
「疲れた〜なんでお姫様ってこんな気が張ってばっかりなんだろう。」
 姫は何気なく机の上を見た。
「……そういやこれ何なんだろう。宝石とか言ってたけど。」
 姫は箱を開けた。
「……キレイ……。」
 姫は宝石の美しさに目を奪われている。と、
「何だ何だ?ここはどこだぁ?」
 男の声がした。
「え?今……誰か……?」
「……ん?あんた……誰だ?」
 声ははっきりと聞こえてきた。
「……誰なの?……いったい……誰がいるの……?」
 姫は思わず身構えながら辺りを見まわした。しかし、誰もいない。
「……おーい。どこ見てるんだー。ここだここだ。」
 姫は声のした方を見た。そこには宝石があるだけだった。
「まさか……。」
 姫は宝石を覗いた。
「うわっ!近過ぎる!」
 宝石の中にはうっすらと一人の男が立っていた。

「……つまりあなたはその中に閉じ込められていると。」
「ま、そういうことだ。」
 姫は宝石と向きあっていた。
「しかし……どうしたらいいのかしら……。」
「さあ〜どうするかはあなた次第だけどね。」
「名前は。」
「ん?」
「名前はって聞いてるの。」
「……ビスロンだけど……どういうことだ?」
「だってしばらく一緒にいるのに名無しじゃちょっとねえ……。」
「ちょっと待て!お前何考えてんだ!?」
「何?何か変な事でも?」
「だってお前俺はこんなだけど、一応男だぞおい。」
「ん〜そうねえ、まあいいんじゃない。あ、そうだ私の名前だけどレィートゥクって言うの。レイって呼んでね。」

 ……こうして俺のわけのわからない共同生活が始まってしまった。しかもどうやらこの女はどっかの国のお姫様らしい。身分の高い人は何考えてんだか。で、その後のことなんだけど、ある夜の事……。

「あのさあ。前から思ってたんだけど。」
「何?」
「他に俺のこと知ってる奴いないのか?」
「いないよ。」
「……もしバレたら俺どうなるんだ?」
「んー……壊される。」
「おい。じゃ俺ある種絶体絶命なのか?」
「多分。」
「……。」
「あ、そうだ。」
 レイは手をたたきながらビスの宝石の方に向き直った。
「ん?何だ?」
「あなたは何故その宝石の中に入っちゃったの?」
「ん?教えてやってもいいけど……そのかわり。」
「そのかわり?」
「お前のヌード一回。」
「……いいよ。」
 そう言うとレイは手を服にかけた。
「待て、やめろ。俺が悪かった。」
「あらそう?そんなに私魅力無い?」
「そういう問題じゃないだろ!」
「もったいなーい。」
「……全くお前には冗談も言えんな。」
「で?話してくれるんでしょ。」
「ああ……あれは俺が兵士やってた頃だな。」
「兵士やってたんだ。」
「ある日命令が出てな、俺の同僚を殺せって言う。」
「え?」
「王様の言う事にはなんかそいつ逃亡者らしいんだわ。理由は知らんがな。で、探しに行ったんだが……。」
 そこで少しの間ビスは黙っていた。
「……どうしたの?」
 恐る恐るレイが尋ねた。
「いや、俺もよくわかんないうちにこんなんなってたからなぁ。ちょっと話を整理してたんだがな。えーと……あ、そうそう、俺はぐれてたんだわいつのまにか。」
「うんうん。」
「たしか山の中だったと思うんだが……もうだいぶ前だからよく覚えてないんだが……一人になってしばらくさまよってたんだがな。」
「それでそれで?」
「いつのまにか目の前に女がいやがったんだ。」
「その人美人だった?」
 レイが期待したように尋ねた。
「バーカ、そいつは年寄りだったんだよ、つまりババァだ。」
「バカって事は無いんじゃない?」
「そのババァがまた食わせもんでな……いきなり俺に魔法をかけやがったんだ。」
「魔法って……。」
「お前さんが考えてるとおりこん中に閉じ込める魔法だったんだよ。しかもどーやらそのババァは宝石を箱の中にしまいやがってなぁ。まあ、それからずっと封印されたままだ。どうやったら出られるのかわからん。」
「そのおばあさんは?」
「さあ……何者だったのかすらわからん。まあ、魔女だったんだろうがな。」
「ふーん……。」
「おい、これでいいだろ。俺もう眠いわ。おやすみー。」

 本当にわけがわからんよ、女ってヤツは。それからまたしばらくは特に何も変な事はなかったんだがな……。

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