「あー今日も1日疲れたー。」
 レイはベッドにひっくり返った。
「お疲れ様。」
「あれ?今日は優しいじゃない?」
「そうか?」
「ねえー聞いてよー。」
 レイは宝石の前に近寄った。
「んー?何だ?」
「今日さー新しい教育係とかいうのが来たんだけど……。」
 突然レイは黙ってしまった。が、突然、
「すっっっっっっっっっっっっっっっっごっいムカツクのよー!!!!!!!!!」
 レイは心から叫んだ。
「うわぁー落ちつけ落ちつけ。」
 少しの間があいた。
「……落ちついたか?」
 ビスがめずらしく恐る恐る尋ねた。
「うん……。」
 レイは少し魂が抜けた感じになっている。
「本当嫌なやつなのよ、そのババァ。」
「おい、お前お姫様だろ。ババァって……もうちょっと言葉選べよ。」
「だってー、こんな喋り方できるのあなたの前だけなんだもん。」
「お前な、そんな誤解される言い方するなよ。」
「いいよ、別に誤解されたって。」
「そりゃまあ、俺とお前以外にここにはいないけども、だ。」
「そんなことじゃないよ。」
 突然レイの口調が変わった。
「は?どういうことだ?」
「……私……あなたのことが……。」
「まて、言うな。」
 ビスがそれを制した。
「いいか、その先は絶対に言うなよ。言ったってロクな事にならん。」
「……。」
「もういいや、寝るぞ俺は。」

 ……この日以来なんだか空気が重くなっちまったんだわ。まあ、宝石ごと捨てられなかっただけマシか。で、それからなんだけども……。

「おう、お休みか?」
「……。」
「……?」
 部屋に入ってきてもレイは黙っていた。それにつられてビスも黙っていた。
「な、なあ。どうした?」
 精一杯ビスは彼なりの優しい声を出した。
「……あのさ、お父様が何だか変になっちゃったのよ。」
「え?」
「優しかったのに今日は何だか変なの!突然隣の国に攻め込むって……。」
「……。」
「お父様は戦争を起こすような人じゃないわ。ぜったいおかしいのよ!」
「なあ、それは本当か?」
「もちろんよっ!」
 興奮しきっているのかレイの声は大きくなっていった。
「……なあ、レイ。」
 ビスの声が真面目な声になった。
「なんか変なもんつけてなかったか?」
「え?……たしか……。」
 レイは考え出した。
「何か新しいペンダントを付けてたけど……。」
「それかな。それを付けられたので洗脳されてんのかもしれねえな。それを取ってみればひょっとしたら……。」
「そうね。……ねえついて来てくれない。」
「どこへ?」
「お父様の部屋へ行くのよ。」
「おい、いきなりかい。」
「うん、お願い。早く元に戻さなきゃ。」
「おいおい、洗脳されてるってのは俺の想像だぞ。」
「お願い。いてもたってもいられないの。」
「それはまあ……わかるとしてもだ。何でついていかなきゃならないんだ?俺が行ったって何にもできないぞ。」
「……一人だと心細いのよ。」
「じゃあ俺以外の誰でもいいだろう。お姫様の命令だから断れないだろう。」
「お願い。あなたじゃないとダメなの。」
 レイは泣き出しそうになっている。
「……わかったわかった。泣くな泣くな。ついてってやるよ。」

「……ここよ。」
 レイは王様の部屋の前にいた。ビスの入った宝石はレイの手の中である。レイの手には宝石とナイフがあった。
「……どうする?いきなり乗り込むのか?」
「それしか方法が無いじゃない。当たって砕けましょ。」
「おい、それでいいのか?」
「うん。……あなたに看取られるなら……。」
「年取った老夫婦の会話じゃないんだから。……とっとと行こうぜ。」
 レイは王の部屋の扉を開けた。
「これはこれは姫様。」
「!?」
 レイが部屋の中に入ると声がした。
「……あなた……何故お父様の部屋にいるの?」
 部屋の中にいたのはフードをかぶったレイの家庭教師だった。
「……まあ、あなたのご想像通りよ。」
 家庭教師は不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱり……お父様にかけた術を解きなさい!」
「……まだ気づいてないの?ここにいるのはあなたと私、そして王だけよ。」
「……。」
「気づいたようね。」
 レイは後ろを振り返った。扉はいつのまにか堅く閉ざされていた。
「そう、この部屋には誰も入ってこれない。あなたも私の術にかかりなさい。」
 家庭教師は静かに、ゆっくりと笑った。
「さあ、私の目を見なさい、レイ。」
 家庭教師はゆっくりとレイに近づいてきた。
「……いや……。ビス、助けて……。」
「おい。」
 ビスが声を出した。
「おや?この声は……どこかで聞いたような……?」
 家庭教師は辺りを見まわした。
「レイ、今だ!目を狙え!」
 ビスが大声を出した。
「えいっ!」
「……うぎゃあああああああ!」
 レイは家庭教師の目にナイフを刺した。
「……おのれおのれぇ。一体誰だぁっ!」
 家庭教師は目を抑えながらわめいた。
「久しぶりだな、ババァ。」
 ビスは家庭教師に声をかけた。
「知ってるの?」
 レイはビスに尋ねた。
「ああ。こいつが俺をこん中に閉じ込めた張本人だよ。」
「え!?」
 レイは思わず声をあげた。
「ぐぬぬぬぬう。おのれ貴様か……お前なぞとっと殺してしまえば良かった……。」
「やかましい。自らの手で犯した事だ!自らの手で償え!」
「ぐ……はああぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」
 家庭教師……いや、魔女は倒れて動かなくなった。
「……一体何が……どうなったの?」
 レイが半ば放心状態でビスに尋ねた。
「ババァは死んだよ。どんなヤツでも目は鍛えようが無いからな。」
「ぐ……ぬ?」
「お父様!」
 レイは王の元に駆け寄った。
「レ……レイ?いったいワシは……。」
「良かった……お父様元に戻ったのね。」
「元に……?ん?レイ、あの男は何者かね?」
 王が指差した先には男が立っていた。
「……ビス?ビスなのね?」
「え?お……俺……元に戻ってる?」
 ビスは自分の手を見つめた。
「そうか……あのババァを倒したから俺も封印が解けたんだ……。」
「ビス!」
 レイはビスに抱きついた。
「お、おい。レイ……苦しい……。」
「あ、ごめん。」
 レイは慌ててビスから離れた。
「おい、レイ。その男は何者なのかね?知り合いのようだが……。」
 レイは王に全てを話した。
「そうだったのか……ワシとした事が……。」
「いいえ、お父様が元に戻って良かった……。」
 レイの目には涙が流れていた。
「ああ……そこの方も誠に感謝する。」
「あ、ああ。」
 ビスは何か居心地悪そうにしている。
「どうしたの?ビス?」
「いや……俺の居場所ここにはねえなって。」
「何言ってるの、ビスはずっとここに居るんだからね。」
「は?何言ってるんだ?俺もう元に戻ってるんだぞ。」
「だ・か・ら……。」

 はあ。本当にあの時は困ったよ。やっと元に戻ったと思ったら……。……ん?それからどうなったかって?それはもちろん……。

 城の広間にはたくさんの人々が祝っている。そしてこの日の主役、嬉しそうなレイと困った顔をしてるビスの姿が目立つところにあった。
「……しっかし。なんなんだかなぁ。」
「どうしたの?あなた。」
「……あなたって……。」
「言ったでしょ、あなたのことが好きだって。」
「でもなぁ……。」
「あなたももう元に戻ったんだから問題ないでしょ。」
「……よく王様も許したなぁ……。」
「当然じゃないこの国を救った英雄なんだから。」
「……はあ。」
 ビスは困った顔をしている。が、どことなく嬉しそうでもあった。
「ビス、あたし……今だから言うけど……。」
「ん?」
「ちょっとあの魔女に感謝してるんだ。」
「何でだよ?」
「だってあなたに会えたんだもーん♪」
 そう言うとレイはまたビスにキスをした。
 俺らはその後仲良く暮らしてるんだが……まあ、細かい事はまたの機会ってことで。もういいだろ?じゃ、またな。

END


あとがきへ
前のページへ
小説目次へ