「お待たせ致しました。」
理香は喫茶店に来ると少し落ちついた。理香自身何故この喫茶店に来てしまったかはわからなかった。ここでもMr.Lifeとの仲について聞かれるのでは、と少々心の準備をしていた。しかしここの従業員は客がどんな状態なのかあまり興味は無いのか、理香については気にもとめなかった。昨日、Mr.Lifeとデートをしたばかりだというのに、質問をしてくるものもいなかった。時間帯の関係もあるのだろうが、客は理香以外にはいなかった。
理香は考えていた。今日された仕打ちをずっと思い出していた。そして不安が押し寄せてきた。
はたして、辰夫は本当に私だけを愛してくれているのか。他に本命の女がいるんじゃないのか。もし、例え今自分だけを愛してくれていたとしても結婚できるのか。結婚しても他に女を作り浮気はしないのか。彼のファンから嫌がらせはあったりしないのだろうか。そして、私は彼を幸せに出きるのだろうか。
理香は自然と涙が出てきた。泣きやもうと思ってもなかなかそうする事はできなかった。
その時だった。喫茶店のドアが開き、辰夫が入ってきた。
「理香。」
理香はその声に驚いた。
「……辰夫さん……。」
「ごめん、理香。まさかこんな事になるなんて。昨日はチケットをくれた悪友の家に泊まってたんだけど……その……。」
「あの……私……。」
「いや、理香、君をこんな目にあわせてしまって……本当にすまないと思ってる。だから……その……。」
「辰夫さん……私……。」
理香はその後、心の中では思ってもいない別れの言葉を口にした。
理香は一人部屋に帰り静かに泣いていた。
留守電には電話があったと表示している。
しかし、理香は留守電のメッセージは聞く気にはなれなかった。
理香は後悔していた。何故、別れを口にしてしまったのか。まだ辰夫の事を愛している、それなのに何故、あのようなことを……。今回の恋もまた、運命の人ではなく、別れなければならないのか?そんなのはいやだ。運命が例え上手くいかないように守ろうとしていても私はあの人の事が好きだ。例え運命でないとしてもこんな別れ方はいやだ。でも、私は……。
突然、ドアが激しく叩かれた。
「理香、いるんだろ、理香!」
ドアの外側には辰夫がいた。
「開けてくれ!理香!」
理香は今すぐにでもドアを開けたかった。しかし、
「ダメよ、帰って。」
理香は涙声になりながら答えた。
「私とあなたは住む世界が違う。私と一緒になってもあなたにはなんのメリットも無い。私は……あなたが思っているほど素敵な女じゃないの。」
「理香……聞いてくれ!」
「もうだめなの。」
「理香!頼む。ここを開けてくれ。君に……言いたい事が……あるんだ……。」
理香はついに堪えきれなくなってドアを開けた。その途端、辰夫は理香を抱き締めた。
「理香、結婚しよう。」
「だめよ。私とあなたは住む世界が違うしファンだって許さないわよ。それにまわりからも。」
「そんな事関係ないよ。大事なのは僕等の気持ちだろ?」
「でも……私、昔子供だったように恋なんてできない。昔みたいに好きなだけで胸の中に飛び込む事なんかできない。大人になって、いろいろとつらい事も増えた。だんだん私は嫌な女になっていった。だから、私……。」
「大人になって辛くて恋ができないなら……もう一度……子どもに戻って……恋をしよう、理香。」
それからしばらくして。
ある病院に勤務する数年前に結婚した看護婦のもとに一枚のはがきが届いた。そのはがきにはこう書いてあった。
「私達結婚しました。原田辰夫・理香」
〜END〜
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