「はあ……なんでだろ……。」
 藤原敦子はため息をついた。彼女は出版社勤務の会社員なのだが最近ついていなかった。通勤途中の電車では痴漢に遭い、家から作ってきた弁当はひっくり返してしまいダメになり、その代りにと買ったパンは賞味期限が過ぎていたり、ビデオの録画予約を間違えてしまい見たかった番組を見れなかったりしていた。
「なんでこんなにツイてないんだろ……。私何か悪い事でもしたかなあ……。」
 一つ一つは小さなことだがそれが多く重なるとどうしようもなく落ち込んでしまうものである。まさに今彼女はそんな状態になっていた。
「あ〜つこ♪」
 後ろから同僚の浮野あすみが声をかけてきた。
「ねえ、今夜呑みに行かない?」
「……うん……そだね……いこっか♪」
「そうこなくっちゃ。4人ともー敦子も呑みに行くってー。」
 あすみが手をふった先には同僚の逢坂敏文、野原鈴卯、窪正登、そして東野重樹が立っていた。

「だからーあの水島の奴はー私が女だからっていいかげんに見てんだってぶぁ。」
 敦子はろれつのまわらない口でぐちっている。
「わかったわかった。藤原が水島課長の事を許せないのはわかったよ。」
 敦子の隣りに座っているのは重樹だった。
「でっしょー。……全く関月先輩をちったあ見習えっての!」
 そう言うと敦子はビールを飲みほした。
「ちょっと、ビールおきゃわり〜。」
 完全に敦子は酔っ払っている。
「ありゃ?」
 敦子が周りを見てみるといつのまにか鈴卯と重樹だけになっていた。
「逢坂ときゃ窪とか……あすみちゃんはどこ行ったのかなー?」
 敦子は酔っ払いながらたずねた。
「もうとっくに帰りましたよ。さ、僕らも帰りましょう。」

「おつかれさまでした、敦子さん、重樹さん。」
「ちょっろ〜だから前から言ってるよぉに〜あつこ、でいいんだってば〜。」
「じゃあね、鈴卯ちゃん。」
 敦子と重樹は鈴卯のマンションまで送りに来た。
「やぁだ〜。鈴卯のとこに泊まるの〜。」
 敦子は酔っ払いながら何か言っている。
「ほら帰ろう。」
 そう言うと重野は敦子をひっぱっていった。
「じゃらね〜。」
 敦子は大きく手をふった。

「ほら、もう行くぞ。」
 重樹はタクシーに敦子を押し込み自分も乗り込んだ。
「どこぉいくにょ〜。ひょっとしてラブホ?もぉ〜エッチなんだから〜。」
「何言ってんだっ!お前の家に決まってるだろっ!……すいません運転手さん、ほら、お前の家どこなんだよ……。」

次のページへ
小説目次へ
ホームへ