ディングの森

「どうやら道に迷ったなあ……。」
 ヴィルカナ王国の領土内にあるディングの森に一人の男が迷い込んだ。名をラデスといい職業は一応冒険家である。
 このディングの森というのはかつて魔王セダーが世界征服に乗り出した時にその野望を打ち砕いた二人の勇者のうちの一人、平和を取り戻した後に旅に出て行方がわからなくなったディングの名を取った森である。何故そうなったかというともう一人の勇者であり、15代目の王となったシェジックが忘れないために親友の名を取ってディングの森としたのである。
 この森はシェジック王が王妃であるウィルナ姫の誕生日に贈り物として人工的に造られた森でもある。作られた当時はあまり大きくなかったが年月が経つにつれ徐々に大きくなっていった森である。道が造られているため、普段この森で迷う者はほとんどいないが、たまに道から外れてしまう者もいる。
 ラデスもその一人である。
「まいったな……今夜はここで野宿か?」
 このラデスという男、実は貴族の家の出身なのだが、次男であることもあってか、放蕩癖がある。今回も彼は冒険心がうずいてこっそりと旅に出たのである。
「なんか家でもあれば……。」
 ラデスは独り言を言いながら森の中をさまよっていた。
 しかし、日はいつかは暮れてしまうものである。

 日が暮れてから2時間ほどさまよった頃、ラデスは暗闇の中に明かりを見つけた。
「……なんだ?明かりが……?こんな森の中の明かりは……盗賊か……はたまた化け物かだ。」
 ラデスは考えこんでいた。
(このまま奥に進んでも家が見つかるとは限らない。だったら……。)
 ラデスは意を決した。


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