オルゴールの旋律:1ページ目

 夜。ウネクトル王都のとある酒場。一人の女性吟遊詩人が歌っていた。酒場には美しい歌声が響いていた。
 しかしその歌声は突如止まった。
 数人の男達が吟遊詩人に声をかけたのだった。
「何か?」
 吟遊詩人は毅然とした態度だった。
「なあ姉ちゃん、こんな所で歌ってないで俺らと一緒に行こうぜ。」
「お断りさせていただきます。」
「何だと!人が下手に出りゃあよ。いいから行こうぜ。」
 そう言いながらリーダー格の男が吟遊詩人の手を掴もうとした。が、
 ぱしぃん!
「痛てて……。」
 吟遊詩人が思いっきりリーダー格の男の頬を叩いた。
「お断りさせていただきますと言ったはずですが?」
「このやろ……もう許さねえ!」
 リーダー格の男は手下に合図しようとした、が、
「どうした?この騒ぎは?」
 ちょうど見まわりをしていた一人の兵士が酒場の中へと入ってきた。
「あ……いや……おい、行くぞ!」
 兵士の姿を見て怖気づいたのかリーダー格の男は慌てて外へ出て行った。それを追いかけるようにして手下たちも出て行ってしまった。
「……大丈夫ですか?」
「……ええ。もっと早く来なさいよ。善良な市民を守るのがあなたの勤めでしょ?」
「……市民?吟遊詩人だと思ったんですが……。」
「うん、吟遊詩人よ。」
「……?」
 兵士は納得のいかない顔をしている。
「わかりやすく言うとここがあたしの故郷なのよ。久しぶりに帰ってきたってわけ。」
「なるほど。」
「と言ってもあたしが旅にでだしたのって親が死んでからだから家族とかいないんだけどね。」
「え?じゃあ今夜は宿屋に?」
「そんなお金あるわけないでしょ、野宿に決まってんじゃない。」
「それは危ない。」
 兵士の顔が真面目になった。
「野宿をするような方を見逃すわけにはいきませんね。ちょっと一緒に来てもらえます?」

 お城の傍にある街中の見張り小屋にて。
「名前は?」
「ミリゥ・ナコ・カッフ……で、あなたは?」
「ジェイだ。……って何で私の名前を言わなきゃならんのだ?」
「まあまあ。」
「とにかく夜は危ないからここに泊まっていきなさい。」
「はいはい。」
「……しかしまたなんだってこんな時期に帰ってきたのやら。」
「……こんな時期だから帰って来たかったのよ。」
「え?」
「知ってるわよ、この国が今ヤバイ状態だってことは。旅先で何回も聞いたわ。」
「……反乱軍がいるという事に?」
「うん……。王様が無能なんだって?噂ってけっこう広まるの早いわよ。」
「でもいいんですかそんなことを言って?私は一応国家側の人間ですよ。」
「……迷ってる。」
「は?」
「あなた迷ってるでしょ?」
「……。」
 ジェイは黙りだした。
「……本当に守りたいのは何なのか……。」
「……反乱軍……いや革命軍のリーダーが私の幼馴染なんだ。」

 それと同じころ、ある一軒の家の中で数人の男たちが会合を開いていた。
「あさってに決行だ。」
「了解。……兵士たちは何人ぐらい協力してくれるんだ、エダンダ?」
 エダンダと呼ばれた若いわりにはしっかりした男はゆっくりと周りを見回したあと、
「全体の半分ぐらいだ。それに民衆の怒りが加わるわけだから……大丈夫だろう。」
「計画は漏れてないか?」
「それも大丈夫だ。不満をもっている奴らにしか声をかけていない。それにあさってに日を決めたのはバレた時にはすぐに行動に移せるようにしたかったからだ。」
「そうか……。」
 その場にいる全員から安堵の表情がもれた。
「ところで……おまえの幼馴染のジェイはどうするんだ?」
「あいつは……必ず俺のことをわかってくれるはずだ。」

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