城前の広場にて。朝から式典の準備が進められている。
「ジェイはまだか?」
 エダンダがお付きの者に尋ねた。
「ま、まだみたいですが……。」
 お付きの者は声が震えながら答えた。
「そうか……。」
 エダンダは黙りこくってしまった。エダンダの脳裏には一つの考えが浮かんだ。その考えはジェイが逃げたのではないかということだった。
「まあいい。それなら本当の裏切り者になるだけだからな……。」
 エダンダは思わずつぶやいた。そのつぶやきをお付きの者は気づかなかったふりをして兵士たちの控え場所に移動していった。

「エダンダ様!ジェイ様がご到着なされました!」
 エダンダはその声を聞くと立ち上がってジェイを迎えた。
「遅れてすまない。旅支度に時間がかかったんだ。」
「おお、そうか。まあ、まだ始まってないからな。気にするな。」
「……。」
「どうした?」
「いや、いつごろ出発すればいいのかなって……。」
「……そうだな、神に対しての儀式はいなきゃならんだろうからな。まあ、その後の踊りとかが始まったあたりで出発したほうがいいんじゃないか?」
「わかった。」
 二人の会話は幼馴染の会話にしてはどこかよそよそしかった。そして、二人っきりで話すのはこれが最後だった。

 式典が始まったとき、広場は異様な空気に包まれていた。本来なら国民は心の底からの歓声をあげるのだろうが、エダンダへの恐怖心からこころなしかおとなしいものだった。
「では、今より承認式を始める。」
 エダンダにうまく取り入ってその地位を得た大臣が声を張り上げた。
「エダンダ様、どうぞこちらへ。」
 エダンダは勿体つけながらステージの中央に現れた。
「今日より、私はこの国の正式な指導者となる。そしてこれは国民に支持され、率いてきた私の力によるものである!」
 エダンダは声を張り上げた。
 民衆はざわついていた。そのざわつきは先の見えない恐怖へのせめてもの抵抗だった。
「さて、承認の儀式を始める。将軍ジェイ、前へ。」
 大臣に呼ばれジェイはエダンダのそばに近づいた。ジェイの顔はこわばっていた。
「どうした?そんなに緊張して。」
 エダンダは小声でジェイにささやいた。
「いや……そうじゃないんだが……。」
「ん?」
 二人は小さな声のまま話している。
「エダンダ……今までありがとうな。」
「?」
 エダンダはジェイの言葉の意味がわからず戸惑っていた。
 次の瞬間、エダンダは民衆の歓声にかき消されながら、倒れた。

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