それはある2月の夜。
「……というわけで本日の放送もこれでおしまい。最後にリスナーのみんなに一言。明日は大事な人や動物に親切にしてみよう。そうすれば、何か良い事あるかもね。それじゃ、さよなら〜。」
最後のジングルが終わると夏美はラジオのスイッチを切った。
「あ〜今日の放送もステキだったな〜、623さん♪」
夏美はそう言いながら部屋の電気を消した。
「まったく。今日も軟弱な放送だったな。」
同じ頃。日向家の庭のテントの中で、ギロロ伍長が623のラジオ番組に悪態をついていた。
「何故、こんな放送を夏美は気に入ってるんだか。」
そうつぶやくと、ギロロはラジオのスイッチを切った。
「……親切に、か。」
ギロロはテントの外へ出て、夏見の部屋の窓を見上げてみた。
「夏美、貴様は俺が守る。」
ギロロは、そう小声でつぶやいた。その声は風によってかき消された。
翌朝。
「じゃあ冬樹。先に行くわね。……そういやボケガエルは?」
「軍曹は新作のガンプラ買うからお店の前で朝から並ぶんだって。」
「あいつも相変わらずね。じゃ、いってきま〜す。」
夏美は冬樹にそう声をかけると、リビングを出て玄関へと向かった。
「あら?ギロロ?」
玄関にはギロロが立っていた。
「ああ、夏美か。」
「何よ、いったい。」
「ん?いや別に用は無いんだが……。」
そう言いながらギロロの顔がいつもより赤くなった。
「あ、そう。じゃ、いってきまーす。」
「気をつけてな。」
そして、夏美は玄関を出た。
「ふう。」
夏美は通学路をとおりながらため息をついた。
「おはようございます、夏美さん。」
「おはよー、小雪ちゃん。」
クラスメイトの東谷小雪に出会った。
「良い天気ですね、夏美さん。」
「そうね……あら?」
夏美の視線の先には1羽の野鳥が倒れていた。
「あの鳥、怪我してるんですかね?」
「そうね……大丈夫かなあ。学校の保健室に連れて行きましょ。」
夏美と小雪は保健室に野鳥を連れてきた。
「……これでOKかな?」
「大丈夫だと思いますよ、夏美さん。」
保健室には誰もいなかったので、夏美と小雪は野鳥に包帯を巻いて、治療を行った。
「早く元気になるのよ……きゃっ。」
突然野鳥が羽ばたいて保健室の窓から外へ飛んでいった。
「元気になったみたいですね、夏美さん。」
「そうね〜……もうケガするんじゃないわよ〜。」
夏美は窓から野鳥に声をかけた。
「ニャン?」
日向家の庭で、ネコが空を見上げた。空には包帯を巻いた野鳥が飛んでいた。
(たしかあれってギロロが大事にしてた写真を……取り返さなきゃ!)
ネコはそう思うと野鳥が飛んで行った方に走り出して行った。
「ん?どこに行った?」
ネコが居なくなった庭に洗濯物を持ったギロロが現われた。
「……まったく、気ままなもんだな。」
ギロロは辺りを見まわした後、そうつぶやいた。
(まって〜)
ネコはひたすら包帯を巻いた野鳥を追いかけていった。
(う〜はやいな〜)
ネコはずっと走っていった。その間、包帯を巻いた野鳥はずっとスピードを落とさずに飛んでいた。
「ドロっ。」
「にゃん!?」
突然、ネコの前にドロロが現われた。
「どうしたでござるか?ネコ殿。」
「にゃんにゃんにゃん!」
ネコは前足を飛んでいる包帯を巻いた野鳥にに向けた。
「……あの鳥に用があるのでござるか?」
「にゃん!」
ネコはひときわ大きく鳴いた。
「拙者に任せるでござる!」
そう言うとドロロは包帯を巻いた野鳥を追いかけ始めた。
「とうっ!」
ドロロはあっという間に包帯を巻いた野鳥に追いついた。
「さあ、捕まえたでござるよ。……鳥を……捕まえる?」
その時、ドロロのトラウマスイッチが入った。
「……そうだよあの時もケロロくんがさあ……鳥をいじめるもんだから怒った鳥が集団で襲いかかってきて……ボクだけ置いてかれてさあ……鳥に……。」
トラウマスイッチの入ったドロロの手から包帯を巻いた野鳥が逃げて行った。
包帯を巻いた野鳥は西澤邸の森の中へと帰ってきた。そしてその野鳥は自分の巣からあの写真をクチバシにくわえて再び飛びあがった。と、
「ん?なんだこいつは?」
西澤邸上空にソーサーに乗ったクルルがいた。
「……何かくわえてるなあ。あれは……。」
そうつぶやくとクルルは怪しげなメカで包帯を巻いた野鳥を捕まえた。
「悪く思うなよぉ。ドロロ先輩がトラウマスイッチ入ってるから何かあったのかと思って見に来たんだが……。何をくわえてたんだぁ?」
そうつぶやくと包帯を巻いた野鳥のクチバシに手を伸ばした。
「なんだ、日向夏美の写真か。つまんねーの。」
そう言うとクルルはその写真を投げ捨てた。
写真は、風にのって西澤タワーのてっぺんに引っ掛かった。
「ただいまー。……あら?」
夏美が日向家に帰ると、いつもより家の中がキレイだった。
「……ボケガエル……は今日ガンプラ買いに行くって言ってたわね。じゃあ誰が……?」
「帰ってたのか、夏美。」
リビングからエプロン姿のギロロが現われた。
「ギロロ?あなたが掃除してくれたの?」
「今日は、暇だったもんでな。」
ギロロはそう言いながら視線をそらした。
「言っとくが、今日だけだからな。」
「はいはいわかってるわよ。……それからギロロ。」
「ん?なんだ?」
夏美はギロロにそっと近づいた。
「ありがと。」
その後、ギロロ伍長の顔がいつも以上に赤くなったのは言うまでも無い。
それから少しの時間が過ぎて。三月のある日。
西澤タワーのてっぺんに一人の男が降り立った。
「……さて、実力を見せてもらおうか、ケロロ小隊よ。……ん?」
男の視線の先にあの写真があった。その写真に紫の手が伸びた。
「……これはたしか……ペコポンの女ソルジャー……。」
その日、地球は1日止まった。
そしてそれから時は流れて。ある秋の日。
「いや〜ケロロ小隊って相変わらず強かったっすね、ガルル中尉。……あれ?その写真は何っすか?」
「ん?……いかん、弟に返してやろうと思ったんだが……すっかり忘れていたな。」
ガルルはそう言いながら夏美の写った写真を見つめていた。
「まあ、次に会った時にでも返してやるか。しかし。」
そう言うとガルルは窓の外に視線を向けた。
「その時に、憶えているかどうかは……わからんがな。」
To be continued……
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