昔、国は何処であったか今は定かではないが、一人の片目の盗賊が居た。
 この盗賊は4、5年前捕まった時右目を焼かれてしまった。以来片目となったのである。その後、彼の心の中には世の中のありとあらゆるものを敵と感じるようになってしまった。
 彼は悪行の限りを尽くしていった。教会や城、大富豪の家から一般の民家から金目のものは奪い去り、家人を殺し、果ては火をつけ全ての物を燃やした。また、彼は気に入った女がいれば身分の高い貴婦人、シスター、踊り子やジプシー、売女、城に忍び込んだ時など王家の姫までも襲い、自分のモノにした。そして彼は自らの欲望を充たした後には、無残にも殺した。
 彼はもはや誰も信じなくなっていった。ある時、彼の噂を聞いた名だたる盗賊団の頭が自分の部下にしてやると誘いをかけたことがあった。彼はその誘いを快く承諾した。いや、したように見えたと言うのが正しいのであろう。その日の晩、彼の歓迎会が催された。宴が終盤にさしかかった頃、中心で赤々と燃やされる炎に何かが投げ込まれた。その次の瞬間、大爆発が起きた。もちろん頭だけでなくその場に居たものは跡形も無く吹っ飛ばされてしまった。
ただ一人、盗賊団が隠し持っていた財宝を抱えながら逃げるあの片目の盗賊を除いては。
 彼は世俗の人々だけでなく神ですら敵であると感じていた。だからと言って悪魔を信じていたわけではない。もし彼の前に悪魔が出てきたとしても契約など結ぼうとせずに殺そうとしたであろう。
 彼はもちろん孤独であった。しかし彼は少しも後悔などはしていなかった。彼はもはや人としての心など忘れてしまっていた。
 しかし、そんな彼にも昔愛した女がいた。その女は奴隷であった。
 ある雨の日、片目の盗賊がまだ両目であった頃、彼女と出会った。奴隷市場でセリが始まるのを見物していた彼はある美しい女性を見た。その時から彼は彼女の事が忘れられなくなってしまった。彼女は彼が住む町の領主の館へと引き渡されていった。
 そしてその晩、彼は彼女の事が忘れられず、領主の屋敷の庭へと忍び込んだ。するとそこには彼女がいた。彼は彼女に声をかけた。彼女は彼の存在に驚いたが、すぐさま恋に落ちた。そしてその日のうちに二人は遠くへと駆け出していった。しかしそれは領主の怒りをかった。
 それから3日後の雨の日二人は捕らえられた。すぐさま彼女は領主の屋敷へと引き渡された。彼はそのまま牢獄へと入れられ、その後右目を焼かれた。
 その後彼は自由になった。すぐさま彼女の居るはずの領主の館へと向かったがそこにあったのは無残な廃墟だけであった。彼は最初何が起こったのかわからなかった。
 その後彼は様々な噂を聞いた。それによると彼が捕らえられた後戦争が起こり国境沿いであったその一体は焦土と化してしまったというのだ。彼女の行方はわからなっかた。
 それ以来彼は全てのものを憎むようになった……。

次のページへ
ミニ小説のページ目次へ