村の中はもう夕焼けに照らされて赤々としていた。
「おーい。聞いてくれよ。またおもしろい話仕入れてきたぜ。」
この村のパン屋の男が小走り気味にやってきた。
「なんだよまたかよ。」
今日の仕事を終えた農夫がまたか、という顔をした。
「そう言うなって、今度の話はちゃんとした話だから。」
「そう言って前はペガサスを見たなんて言って、結局あれは馬が崖の上からおっこちただけだったじゃないか。」
農夫は取り合おうとしない。
「今度の話は確かなんだって。今日この村に久しぶりに旅の商人がやってきたんだよ。」
「ああ、らしいな。」
農夫は適当にあしらっている。
パン屋は話を聞いてもらおうとムキになりだした。
「その商人が言ってた話なんだよ。森の中で男が死んでた話。」
「くだらん。」
農夫は興味がなさそうに答えた。
「じゃあその商人のところに行って話聞こうや。今酒場に居るはずだからよ。」
「酒場?」
農夫の目は酒場と聴いたときから輝きだした。
「よし、行こうか。」
農夫はそう言うとさっさと酒場へと早足になった。
「そうこなくっちゃ。」
パン屋も後ろからついていった。
……ん?おや先程の方じゃないですか。え?また話をしてくれ?と言われましてもねえ。今日の稼ぎが思ったより無くてねえ。誰かこの首飾り買わないかなあと……え?買ってくださる?それはありがとうございます。銀貨3枚でいかがです?え、2枚にしてくれ?……うーん、ま、いいでしょう。じゃあ確かに。奥さんにでもおあげなさい。
では話をはじめさしていただきます。
私がこの村に来る5日ほど前でしたかね。その日は森を通らなければならなかったんですが……。そうですね、だいたい夕方頃ですかね、私が一休みしようと大きな木の根っこで腰をおろしたらしたら足下に大きな石が転がってたんですね。で、私はその石をどかそうとしたんですよ。でもね。……え、顔が怖い?もうちょっとやさしい顔で話してくれ?と言われましてもねえ。こうしないと気分が出ないんですよ。
えーとどこまで話したんでしたっけ。あ、そうです、石をどかそうとしたんですよ。そしたらその石は骸骨だったんですよ、骸骨。私は気味悪くなりましたけどね、でもこのままってのも可哀想なんで弔ってやる事にしましてね。いえ、私は聖職者なんかじゃありませんがね、そこは見様見真似ってやつで。私は弔いをすませて墓でもこしらえようとしたんですよ。そこらへんにあった細長い木の板っ切れを拾って骸骨を埋めたところにつきさしたんです。で、その板に何か書こうとしたらすでに何か書いてあるんですよ。よく見てみるとこんな事が書いてあったんです。「助けてくれ」って。それも血で書いてあったんです。
私は気味が悪くなったんで急いでそこから離れることにしたんです。
十分後ぐらいには森を抜け出たんです。
その日は私はその森から30分ほど歩いた所にある村に泊まったんです。その村の宿屋の主人がまた話好きな方だったんです。私はその日森であったことを話したんです。宿屋の主人は私の話を聞くとこんな事を話してくれましたよ。
あの森には一つの伝説があって、その伝説とはあの森で昔死んだ王様がいて、その王様はとんでもない悪政王だったんです。その王様が森から出られなくなったそうです。その時お供を連れていたんですがそのお供は無事出られたそうです。結局行方不明になったのはその王様だけだったんですが翌朝見つかったそうです。その王様の遺体が。ただ、その王様は死ぬ間際に自分の血で壁に書き残したそうです。助けてくれ、と。
そう、私が見つけた骸骨のそばにあった板に書いてあった事と同じことが書いてあったんです。それに血で書いたっていうのも同じなんです。私は背筋がゾクっとしましたよ。宿のご主人が言うにはあの森には一つの噂がありまして、あの森には不思議な力があり悪い事をした人間が入りこむと迷ってしまい出られなくなると。そして恐ろしい体験をして死んでしまう、と。ひょっとしたら私が見つけた骸骨も何か悪いことしてたんですかねえ。ま、私達には関係の無い事ですがね。
〜END〜
あとがきへ
前のページへ