俺は息が荒くなった。女は動かなくなっていた。しかし。またいきなり動き出して俺の前に現われないとも限らない。……どうするか。体を引き裂くか。しかしそれはかなり力がいる。それにもし引き裂いたとしても体は残っている。……。
俺は黙って立ち上がった。とにかくここから速く逃げ出したかった。ここにいるとまた誰か……いや。またあの女が現われてしまう。急がなければ。その時だった。俺の頭に火打石が浮かび上がった。そうだ。火をつけて燃やしてしまおう。この建物ごと。
俺はそう思うと台所へと急いだ。
修道院は俺の前で燃えている。あの女とともに。俺は修道院に背を向けると後ろを振り返らないように歩き出した。もし振り返ったらまたあの女が立ってそうで怖かったからだ。
俺はただ黙って歩き続けた。
……しかしだ。俺は日が暮れてもまだ森からは出られなかった。俺は疲れきっていたのでそこいらの木の根っこに腰をおろした。
俺は内心あせっていた。もし、もしだ。このまま森から出られなかったとして、だ。俺はどうなるんだ。死ぬのか?まさかな……。俺はぼんやりと森の奥を見つめた。この森で迷って何日目だ。3、4日目ぐらいだ。そういやこの森って何か獣がいたよな。そうだ。あれに襲われたらひとたまりも無いと思って歩いてて……あの修道院を見つけたんだ。で、あの女に会ったってわけだ。あの女は俺の好みだったんだよな。……?何か今また引っかかったぞ。好み……?なんであの女俺の好みなんだ?昔俺が付き合った女はどんな……。
「!?」
その時だった。ここ数日の間俺にまとわりついてた思い出せない昔の事がはっきりしてきた。
それは昔俺が愛した女。愛し合い将来を誓い合った女。幸せになるためにともに逃げた女。そして……俺と引き離された女。
俺の体は震え出した。あの女……あのシスターの顔。あいつの顔は俺が昔愛した女の顔だ。そうだ。俺がこの森に入ってから会った全てのシスターの顔は全て昔俺が愛した……あの女!?
俺は息をのんだ。だとするとあの女は死んじまったのか。そうか……。いやちがう。そういうことじゃない。俺はあいつにひどい事をした。俺はあいつを裏切った事になるのか。だとすると。あいつは怒っているのだろう。ということは。あいつが俺を殺そうとしている……?
俺の体は震え出した。
いやだ。また死にたくない。俺はまだ死にたくない。俺はまだ……。
その時だった。向こうの方から足音がする。まさかまたあいつがやってくるんじゃ。そう思うと闇の中に何か建物が浮かび上がって見える。まさか……あれは……あの……修道院!?そうだ。あれはあの修道院だ。昨日、そしておととい。俺は別の修道院だと思っていたが同じだったんじゃあ……。そういや中の造りや模様も似てた。似てたんじゃなくて同じもの……!?
向こうからやって来る人影がだんだん近付いてくる。それにつれて人影がはっきりしてきた。法衣を着てる。そして……顔はまたあいつだった。
「うわあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
俺は逃げ出した。いやだ。俺は死にたくない。俺はまだ死にたくない。俺はまだ、俺はまだ……。いやだ。いやだ。死にたくない!
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