「……で、どうなったんです?」
 俺は女の話につい夢中になった。女は少しまじめな顔になった。
「……お城に帰ると兵隊を皆集めて王様を探しに行ったそうです。昨日はあれだけ迷ったのに簡単にその小屋は見つかったそうです。王様は……亡くなってたそうです。」
「亡くなった?」
 俺は思わず前に乗り出した。
「ええ。」
 女はさらに深刻な顔になって話し続けた。
「王様は死んでたんですが、死因がはっきりしてなかったんです。と、いうのも刺された傷も無ければ首を絞められた痕も無かったんです。あったのは自分でかきむしった腕の傷ぐらいで。ただ……。」
「ただ?」
 女は少し口ごもった。俺は少し不安になってきた。
「壁に王様が書き残した文字が……。」
「文字?」
「ええ、その字はかきむしった時に出てきた血で書いたんでしょうが、こんな事が書いてあったそうです。助けてくれ、と。」
「助けてくれ……?」
 俺はおもわず聞き返した。
「助けてくれ、ですか?」
「ええ。」
 女は深刻な顔を崩さない。
「結局何故王様が死んだのか理由はわかりませんでした。お供の方は死刑を覚悟したそうですが無罪になったんです。」
「え?何故……?」
「先程も言ったようにその王様は悪政王だったんです。それで国民からはもちろん家来からも嫌われていたんです。その王様が死ぬきっかけを作ったんですからお供の方は犯罪者ではなく英雄として称えられたそうです。その後遠縁のものが王位につき、お供の方はどんどん出世して最終的には大臣にまでなったそうです。」
 俺は女の話しに聞き入ってしまった。そんなに話はおもしろくなかったが、女の話し方が上手いのか、どんどん引き込まれていった。
 女の顔がまた微笑んだ。
「じゃあもう夜遅いですからお休みになられますか?」
「はい。」
 女は俺を部屋へと連れていった。部屋についたらこの女を……。

 ……俺は動かなくなった女を黙って見つめていた。
「……。」
 俺はある一つの考えが頭から離れなかった。あの女の抱き心地が似てたんだ。昨日抱いた女に。一人だけじゃない。三人とも似てた。今の奴も含めると四人だ。俺の好みの女だったから似てて当然かもしれないけど。でもなあ……。
「ふう。」
 俺はため息をついた。考えた所でどうにかなるわけじゃない。それよりとっととこいつをどこかに隠しておこう。
 そう思うと俺はどこかいい隠し場所を探しに行くことにした。

 俺は唖然とした。隠し場所を探し回っているうちに地下室を見つけた。……しかし。似てた。部屋の中が。昨日の修道院に。
 ……。俺は頭の中が混乱してきた。似てる?いやそのものかもしれない。……まさか、な。俺はそう自分に思いきかせる事にした。
 とにかく早くこの部屋に女をぶち込まないと。

「……。」
 俺は今日泊まることにした部屋のベッドの上に寝転がった。しかしまだ頭の中は混乱したままだった。似すぎている地下室。これは似たような造りがこの辺に多いとしよう。しかしだ。女の抱き心地が似てるっていうのはなあ……。女が似ている。地下室が似ている。扉の模様が似ている。……?たしかに偶然てこともある。でもだ。このところ妙な違和感が残っている。そういやここに最初に来た時埃が積もってて人は居ないと思った。しかし、人は住んでた。でも……もしだ。あの女が幽霊だったらな。人は住んでないが幽霊は住んでる……。ははははは。何考えてんだ。ガキの作り話じゃあるまいし。
 俺は何気なく窓の外を見た。いつのまにやら霧ははれていた。月もけっこう傾いている。……ん?これ……昨日もあったよな?いかんこれじゃ昨日の二の舞だ。
 俺はそう思うと慌てて寝る事にした。

 翌朝。俺はまた寝坊してしまった。そしてまた一人のシスターに見つかってしまった。
「朝ご飯いかがですか?」
 シスターはそう笑顔で言ってきた。俺はまたご馳走になることにした。
 しかし。俺にとって驚いたのはそのシスターの顔が昨日のシスターに似てたって事だ。

 俺は混乱していた。なんで同じ顔何人もいるんだ。しかもこんな短い間に。
 シスターはそんな俺にかまわず料理を続けている。俺はシスターの後姿を見た。似ている。昨日の女の体に。いや、それだけじゃない。おとといの女にもだ。あの時は俺の好みだから似てて当然と思っていたがやはり変だ。……ちょっとまて。おとといの女たちの顔はどんな顔だっけ?
 俺は考え込んだ。そこから考えが前に進まない。
「できましたよ。」
「うわっ。」
 俺は驚いた。シスターの顔が俺の目の前にいきなり……?あれ。これ前もあったよな。昨日……。ちがう。おとといもだ。そう、おととい……。
 その時だった。おとといに感じた違和感の正体がふいに頭の中に浮かび上がってきた。そうだ。地下室に三人目の女をぶち込んだ時、床に落ちたんだよな。なんで床に落ちるんだ?それまでに殺した女が二人いるはずだ。いるんならその上に落ちるよな。なんで床に……?……消えた……?女の死体が。いやまだ生きていたシスターがどこかに運んだ……?そんなことするぐらいなら誰か呼んできて俺を捕まえようとするだろう。じゃあ何故消えたんだ……?
 俺は急に不安になってきた。そうだ。地下室。俺はそう思うと台所を飛び出した。
「あ、どちらへ。」
 シスターが俺に声をかけた。しかし俺はかまわず地下室へ走った。ひょっとしたら昨日の女も消えているんじゃ……。俺は頼むからいてくれと願いながら走っていった。
 しかし。消えていた。どこにもいない。
「……」
 俺は黙りこくってしまった。
 やっぱり消えている。まてよ。じゃあさっきの女は……。
 そう思った時だった。
「どちらへ行かれたんですか?ご飯できてますよ?」
 シスターの声がした。
 まさか俺を殺そうとしてるんじゃ……。俺は冷や汗をかいていることが自分でもわかった。このままだと俺は……。俺は息を飲んだ。殺されるのは嫌だ。ならば……。
 俺は足音を立てないように階段を上っていった。シスターは今何処に居るのだろう。自分のものになんかしてられない。殺すだけだ。
 俺はシスターに気付かれないように廊下を歩いていった。
 俺の前をシスターが歩いている。俺はゆっくりと女の首に手をかけようとした……。

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