礼拝堂(Chapel)
三人が入ってきたとき、礼拝堂の内部は月明かりでぼんやり明るかった。
「ほほう、これかその十二神の絵は。」
マギクの視線の先には巨大なフラスコ画が飾ってあった。
「東側か……。で、南側にあるのがステンドグラスか。これはやっぱりあれか?創造神か?」
マギクはいつのまにか顔が笑顔になり始めた。
「ええ。」
イリサがそれに答えた。が、
「?どうした?二人とも?」
「いや、そのねえ。」
「マギクさん、やっぱり絵が好きなんだな〜って。」
イリサもタンリズも笑顔になっている。
「ほ、ほっとけ!で、西側にあるあの像はなんだ?」
マギクが示したほうには一体の白い人型の像があった。
「あれ?あんなところに像なんかありましたっけ?」
そう言いながらタンリズは左手をかきながらその像に近づいていった。
「お、おい気をつけろよ。」
マギクがそう声をかけた。しかし、
「大丈夫ですよ。」
そう言って像に触れた瞬間、
「グアァァァァァァァァァァォォォォォォゥ!!!!!」
叫び声とともに像が動き始めた。
「うわっ!」
タンリズは慌てて飛びのいた。
「だから言っただろか!」
「に、逃げましょう!」
イリサがそう言うと三人は扉へと駆け寄った。しかし、
「グゥァァァ!」
像のように見えた白い化け物は扉の前に立ちはだかった。
「きゃっ!」
「こいつを倒さなきゃ外には出れないってことらしいな。」
「くそう!」
三人はそれぞれ身構えた。タンリズはロングソード、マギクとイリサはナイフを手にしていた。
「……てやっ!」
まず最初に化け物に向かっていったのはマギクだった。
マギクのナイフは化け物の左腕を突き刺した。
「グァァォゥ!」
化け物は痛がり、体を振り回している。が、
「うわっ!」
振り回した右腕がマギクにぶつかった。そのため、マギクは数メートル吹っ飛ばされた。
「だ、大丈夫ですか!?」
イリサが声をかけようと後ろを振り向いた。
「そいつから目を離すなっ!」
マギクはそれに怒声で返した。
「グアァ!」
化け物は今度はイリサに向かってきた。
「てやっっ!」
それを今度はタンリズがロングソードで防いだ。
「グアアァァォゥ……ドケ……。」
「!?」
タンリズは化け物が言った言葉に気を取られてしまった。そして次の瞬間、
「うわっ!」
タンリズも吹き飛ばされてしまった。
「タンリズっ!」
イリサはまた叫んだ。しかし、
「きゃあぁぁぁぁっ!!!!!」
それは悲鳴に変わった。
化け物はイリサの右腕をつかんでいたのだ。
「いやっ!離してっ!」
「イ……イリ……サマ……」
「姫っ!」
慌ててタンリズが化け物に向かっていった。そして、それにつられてマギクも化け物に向かっていった。
「てやぁっ!」
タンリズはイリサをつかんでいる化け物の腕にロングソードを突き刺した。
「グゥヮォッ!」
化け物はそう叫ぶとイリサを離した。
「姫っ!大丈夫ですかっ!」
タンリズはイリサに近寄った。
「……だ、大丈夫……。」
「……。」
マギクは何も言わず化け物を見つめていた。
「くそう、私が相手だっ!」
タンリズは再び化け物の前に立ちはだかった。しかし、
「グアォゥッ!」
化け物は再びタンリズを吹っ飛ばした。
「ぐうっ……。」
さすがにタンリズも今の一撃は効いてしまった。
そして化け物はまたイリサの腕をつかんだ。
「ああっ!」
「ひ……め……。」
化け物はイリサの右腕をつかんだ。
「ヒ……イリ……メ……。」
化け物は何かを言っているようだった。
「姫ぇっ!」
タンリズは力の限り叫んだ。しかし、体は思うように動かなかった。
「てやっ!」
突然、マギクの叫びとともに化け物の目にナイフが突き刺さった。
「グアァァォォゥッ!」
化け物は致命傷を受けたらしく苦しみながらのた打ち回っていた。
「グゥア……。」
タンリズができる限り早くイリサに駆け寄った。
そして、化け物はまだ苦しんでいた。
「グア……ヒ……ヒ……イリ……サ……。」
「!?」
マギクが突然驚いた顔になった。
「ど、どうしたんです?」
「何か……。」
「静かにしろ!」
マギクは二人の問いを遮った。
「……今コイツ……姫さんの名前呼ばなかったか?」
「「えっ?」」
三人は黙って化け物の声を聞き始めた。そして、
「イ……イリ……グワッ……メ……ググゥァォゥ……マ……イリサ……。」
「「「!?」」」
今度は三人そろって驚いた。
「今たしかにっ!」
「何でだ?」
「……。」
イリサだけが黙って化け物を見つめていた。そして、
「グゥゥ……。」
イリサは化け物に優しく手を触れた。
「ひ、姫っ!」
タンリズは思わず大声になってしまった。
「危ないですよ!」
「……タンリズ、大丈夫。」
イリサは決意を秘めた声で答えた。
「グォ……イ……イリサ……サマ……。」
化け物の声がはっきりと聞き取れるようになった。
「……あなたは誰なの?ここで……ここで何があったの!?」
「……ヴィトラ…デス。ヘイ……シチョウノ……ヴィトラデス……。」
「「!!!」」
イリサとタンリズは驚いた顔になった。
「ヴィトラ!?何故……?」
イリサの声に涙が混じりだした。
「イ……イリ……バケモノガ……オソ……テ……ンナヤラ……。」
「ヴィトラ!?ヴィトラ!?」
「グァ……カ……レタラ……ググググ……トツ…スガ……カ…。」
「しっかりして下さい!」
タンリズも声を大きくした。
「キョウ……オウ……マ…………。」
少しの間静寂になった。そして、それっきりヴィトラは動かなくなった。
「……。」
「ヴィトラさんっ!」
タンリズの叫びが礼拝堂に響いた。レクイエムのように。
そして、再び静寂。
イリサの涙だけが流れていた。
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