地下牢(Dungeon)



「ここか、地下牢は。」
 マギクが部屋に入るなり声を出した。
「よくわかりましたね。」
 タンリズが感心の声をあげる。
「わかるよ。……ここが一番俺にふさわしい場所だからな。」
 マギクが視点を二人に合わせずに答えた。
「……。」
 タンリズとイリサは黙ってしまった。が、
「ばーか。」
 マギクがあきれたように声を出した。
「鉄格子がありゃあ誰だって地下牢だって思うだろうが!」
「あ。」
「……ふふふっ。」
 タンリズはあっけにとられてしまった。そしてイリサは笑い出してしまった。
「さてと、こっから……ん?」
 マギクが何かを見つけた。
「マギクさん?」
 イリサはマギクに声をかけた。が、イリサを無視してマギクは鉄格子の中に入っていった。
「……おい。ここに何か書いてあるぜ。」
 マギクはそう言うと二人を手招きした。
「え?」
「どういうことです?」
 二人は慌てて鉄格子の中へと入っていった。
「ほら、ここ。何か書いてあるぞ。」
 マギクが指差した先には赤い文字が書かれていた。
「赤い?」
 イリサが疑問の声を出した。
「それは姫……。」
「黙ってろ。」
 タンリズが説明しようとするとマギクがそれを制した。
「……読むぞ。」
 マギクはため息を一つついてから書いてあることを読み始めた。
「……『これを誰が見るかわからない。しかし時間がない。だからここに記す。目の前に化け物が迫っている。今はまだこの鉄格子のおかげで近づいてきそうにない。だがいつまで持ちこたえられるのか……。』」
「化け物が……。」
 タンリズが思わずつぶやいた。
「ああ、どうやらこの城の中にはたくさんの化け物がいたのは間違いなさそうだ。えーと……『盗みを働いてつかまった時はこうなるとは予想できなかった。俺の名はジート、盗賊だ。俺がここに入れられてからどれくらい経ったかわからない。ある日、その日はたしか晩餐会だと看守が言っていたが、突然上のほうが騒がしくなった。叫び声が聞こえ始めた。たしか助けてくれ、だとか化け物だー、なんて言ってた気がする。俺は最初何のことだかわからなかった。とりあえず看守は大慌てで上へと上がっていった。そしてそのまま帰ってこなかった。しかし、そのうち叫び声がこっちにも近づいてきた。一人の女が階段を転げ落ちてきた。俺もびっくりして声をかけたが錯乱しているらしく、何を言ってるんだかわからなかった。』」
「……。」
 タンリズは黙ってしまった。
「晩餐会か……『その女はまた叫んだ。俺は何か聞こうと思ったんだが次の瞬間言う気をなくしてしまった。化け物だ。ここからはその化け物の特徴を書いておく。赤い溶液を出しながら動いていた。足が何十本も生えていた。ただ、その足は短かった。頭にあたる部分は柔らかそうだった。色は赤茶だった。その化け物は女を襲った。女の悲鳴……俺はいつのまにか目をそむけていたのでどんな風に殺されたかは見ていない。その後……化け物が俺に向かって……今は鉄格子の外側にいる。今、階段からもう一匹現れた。』……やっぱり一匹じゃないみたいだな。『もう一匹も俺めがけてやってきた。鉄格子に何回も体当たりをしている。』……だんだん字が乱れてきたな。『まだ上からは叫び声が聞こえる。もう一匹の特徴を書き記す。タコのようにぐにゃぐ』」
「ぐにゃぐ?」
 タンリズが尋ねた。
「ここで終わってる。後は書き乱れていてなんて書いてあるかわからん。多分、ここで襲われたんだろう。」
「……姫?」
 タンリズが周りを見渡すといつのまにかイリサがいなくなっていた。
「……。」
 タンリズは黙ってしまった。
「心当たりは?」
「さあ……。」
 その時。何かが崩れ落ちる音がした。
「?何の音だ?本が崩れた感じだが」
「おそらくは……書庫からでは。」

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