書庫(Library)



「おーいどこだー?」
「姫―!」
 マギクとタンリズがイリサを探している。
「しかしここは……本まみれだな。いったいどれぐらいあるんだ?」
「さあ……私もよくは。」
「そうか……ん?」
 マギクの視線の先にはイリサがしゃがんでいた。
「いたいた。」
「姫……。」
 二人はイリサに近づいていった。
「どうした?お姫さん?」
「……姫、たしかに辛いとは思います。しかし……。」
「?おい……。」
 イリサは何かの本を読んでいた。
「姫?」
「何だ、その本。」
「あ、ごめん二人とも。」
 イリサはやっと二人に気が付いた。
「いったいどうしたんですか?」
「さっき……地下牢の壁に書いてあったのを聞いてるうちに思い出したことがあって。」
「思い出したこと?」
「うん……似たような話がこの本に載ってるのを思い出したの。」
 そう言いながらイリサは一冊の古ぼけた本を取り出した。
「似たような話?」
「うん、説話なんだけど。さっき晩餐室で絵を見たでしょ?」
「ああ、あの赤い涙のな。」
「あれって説話を元にして書かれたって言ったでしょ?その説話にそっくりなのよ。」
「ほお。で、いったいどんな話なんだ?」
「うん、突然町をたくさんの怪物が襲うって話。」
「ほお。」
「それって牢屋に閉じ込められた男からの目線で書いてあるのよ。」
「なるほど……。」
「だからそれのいたずらじゃないかって……。」
「ふうむ。だが、さっきの化け物はどう説明する?」
「それは……その……。」
「マギク!」
 タンリズが突如怒鳴った。
「いいかげんにしてくれ。」
「……まあ、そうだが……ん?」
 マギクがタンリズから目線をそらした。
「今度は何だ?」
「静かに。」
 マギクの声のトーンは低くなっていた。
「何か、聞こえる。」
 マギクはある一点を見つめていた。
「……どうしたの?」
「わからん。」
「何言ってるんですか。」
 タンリズはあきれたような声を出した。そして、マギクが見つめているほうへと歩いていき、
「別におかしなところはありませ……うわっ!」
 突然本の間から角を持った赤茶色の化け物が現れた。まるで古典的な悪魔の姿のようだった。
「うわあっ!」
 油断していたタンリズは左腕をその化け物に噛み付かれた。
「だ、大丈夫!?」
 イリサが叫んだ。
「ぐうっ……。」
 タンリズは痛みで表情が歪んでいる。
「姫さんは下がってろ!」
 マギクがそう叫ぶと懐からナイフを取り出した。
「ていっ!」
 マギクはその化け物の右腕を刺した。
「ほら、逃げろ!」
 マギクはそうタンリズに叫んだ。
「くっ……。」
 タンリズは体制を崩した。
「くそっ!」
 マギクは必死に立ち向かっているが形勢は不利になっていった。その時、
「ウグァッ!」
 突如化け物が目を抑えた。
「やった!」
 後ろからイリサの声がした。マギクはその声を聞き、意を決して化け物の胸を突き刺した。そして、化け物は叫びながら倒れた。
「はあっ……はぁっ……。」
 マギクの息は荒くなっていた。
「まいったな……。」
 そうつぶやくとタンリズの方を向いた。
「大丈夫か?」
 マギクはタンリズのほうへと駆け寄った。タンリズは座り込んでいる。その横にはイリサも座っていた。
「大丈夫です。」
「そうか……しかしまずいな。予想してないところからだったから……油断できなくなっちまった。」
「……でも、戻るわけには……。」
 タンリズがつぶやいた。
「え?今からでも戻ることはできるぞ。」
 マギクがそれに答えた。
「いや、ここまで来たら後にはひけません。行くしかないです。」
「行くしかないっていうけど。この先何があるかわからないんだぞ。」
 マギクはあきれたように話し出した。
「いいか、こんなところにも化け物はいたんだ。この先にいないなんて考えられん。それにだ。何かあるならまだしも何もないかもしれないんだぞ!」
 マギクは興奮しだした。
「いいか?この上に行って何があるっていうんだ?おそらく今までと変わりはしないぞ。何もなく、ただ現実を見せられるだけだ!それでも上に行こうって言うのか?」
「でも。」
 イリサはそれに冷静に返した。
「私は行きます。お父様の部屋に行けば何かわかるかもしれません。」
「あのな。だから何もないかもしれないと。」
「いえ。何もなくても私は行かなければならないんです。それが、ドラザァー家の血をひく者の使命なんです。」
「……そうか。」
 マギクもこれには言い返せなかった。
「しかし、姫さんの大事な部下はどうするんだ?今受けた傷もあるんだし……。」
「私なら大丈夫です。」
 タンリズはふらつきながら立った。
「行きましょう、上の階へ。……王の間へと。」

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