調理場(Kitchen)



 階段を下りてくる足音が響いている。そして、その足音より少し遅れて三人が姿をあらわした。
「そうか……調理場は地下にあるのか。」
 マギクは確かめるようにつぶやいた。
「ええ、お客さんにあまり裏側って見せないでしょ?」
 イリサがそれに答える。
「なるほどね。」
 そんな二人の後ろをタンリズは黙ってついていった。足元には壊れた壷や調理器具が散乱していた。
「……寒いな。」
 マギクはそうつぶやいた。マギクが言うように、地下ということもあってか調理場は寒かった。
「ま、冷えてるほうが物が腐りにくいから……ここが調理場としてベストなのよ。」
 イリサがマギクにそう返した。
「……あのさ、お姫さんよ。」
「はい?」
「無理してないか?」
「いいえ。」
「そうか……。」
 三人は黙っていた。
「しかし……ここも妙だな。」
「え?」
「臭いが何もない。」
「……確かに。」
「な、何故なんですか?」
 タンリズだけが合点のいかない顔をしている。
「食べ物が普通は腐るだろうが。特に、こんなに壷だとかいろんな物が割れてんだぞ。」
「あ……。」
 マギクが教えるとタンリズが感嘆の声を出した。
「まったく。」
「まあまあ。」
 マギクがため息混じりに言うとイリサがそれをたしなめた。
「さて……こっからどうすれば上にいけるんだ?」
「うーん……本当ならあの扉から上にいけるんだけど……。」
 そうイリサが言いながら示したほうの扉もひん曲がっていた。
「ここもか……。」
「……。」
「他に行き方は?」
「さあ……。」
「地下牢からなら……。」
 タンリズがボソッと言った。
「地下牢か……。」
「それは何処にあるの?」
 イリサがタンリズに尋ねた。
「イリサ様はご存知ないのですか?」
「おいおい、普通姫が地下牢に行くことはまずないだろうよ。」
「あ……。」
「お前な。いつも『姫、姫っ!』って言ってんならちったぁ姫の立場になって物を考えろよ。」
「ぐ……。」
 タンリズは何も言い返せず黙っていた。するとマギクは
「黙ってんなよ。地下牢はいったいどこなんだ?」
「……晩餐室を抜けていけば。」

晩餐室へ進む
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