そしてそれからしばらくして。スーズとヨミナはヴィルカナ王国より東の方角にあるオレゴルの町に着いた。
 二人はとりあえず宿を取ることにした。そして、この町に祭られている農耕の女神、リチェの加護を受けに聖堂へと向かった。
 その帰り道、町の中では人通りの少ない裏通りで事件は起きた。
「きゃっ。」
 きっかけは誰かが叫んだだけだった。しかし、その声のした方には一人の女性が三人のゴロツキに絡まれていた。
「ヨミナ。」
「行くわよ。」
 二人は女性とゴロツキ達の間にわって入った。
「感心できないわね。」
「か弱い女性に絡むなんて、男の風上にもおけない奴らだ。」
 二人が少しバカにしたように軽く制した。
「なんだと。」
「ほぉー言ってくれるじゃないか。」
「そこまで言うなら、覚悟はできてんだろうな。」
 そう言うとゴロツキ達は二人にかかっていった。
 最初はヨミナとスーズの方が優勢であった。ヨミナの剣の腕はそれなりに上手くスーズの剣さばきは見事としか言いようがなかった。またたく間に二人のゴロツキは倒れた。  しかし、ヨミナが一人の男を倒した時、剣を叩き落とされた。
「ふう。」
 ヨミナは最後に残ったゴロツキ―そのゴロツキは三人の中で一番体格が良かったが―がヨミナの両手をつかんだ。
「あぁっ。」
「ヨミナ!」
 ゴロツキは不敵に笑った。
「おやおや、剣の腕はまだまだのようだったな。ほら、この恋人の命が惜しかったら剣を捨てな、兄ちゃん。」
 スーズは少しの間にらんでいたが、剣を手から離した。
「そうそう、いいねえ、素直なのは。ん?よく見りゃこっちもいい女だねえ。」
 と、その時。
「いてぇっ!」
 どこかから石が飛んできた。そのため、ゴロツキの手がヨミナから離れた。
「あーあ、情けねえなー。」
 手を痛めるゴロツキの後ろ側からまた別の男の声がした。
「まったく、油断してたらろくな目にあわないぞ。」
 ゴロツキは後ろを振り返った。そこには一人の男が立っていた。
「何だ、てめえ!」
「……商人ですが。」
 自称商人の男は妙な笑みを浮かべている。
「ま、ちょっとぐらいならいいだろう。ジュミラ!」
 自称商人の男が何やら叫んだ。その時、ゴロツキが顔色を変えた。
「あ……あ……う、うわーっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ゴロツキは慌てて走り去ろうとした。が、先ほどからまれていた女性が知らせたのか、自警団が駆けつけてきた。そして、倒れているゴロツキ達と共に一番体格の良いゴロツキは捕まっていった。
「……あ、ありがとうございます……。あの……あなたは……。」
 ヨミナは自称商人の男に恐る恐る尋ねた。
「え?私は単なる商人ですよ。」
「商人があんな魔法、使えるわけないだろ。」
 スーズが真剣な目つきでその男をにらんだ。
「あんた、いったい何者なんだ?」
レストラン


「……私の名はギツルミ。ギツルミ・カートモ・ラッソ。ギツって呼んでください。」
 オレゴルの町にあるレストラン、このレストランは結構有名でヴィルカナ国だけでなく他の国からも名声を聞きつけわざわざ訪れてくる貴族もいるほどである。そのレストランにヨミナ、スーズ、そしてギツはテーブルに座っていた。
「私はヴィルカナの城下町にある防具店「ラッソ」の跡取息子だった者です。」
「なんだ、『だった』って。」
 スーズが肉をほおばりながら聞き返した。
「家出してきたからね。」
 ギツは苦笑いを浮かべながら答えた。
「家出って……何故なんです。」
 ヨミナはテーブルの上にある料理には手をつけずにギツの話を聞いていた。
「私は魔術師になりたかったんです。」
 ギツはちょっと照れたように話しだした。
「城下町っていうのもあったんでしょうがよく曲芸団が来ていたんです。私はそれがとても楽しみだったんです。その中でも特に好きだったのは奇術でした。いまめかしい爺さんが観客の見てる前で次々と様々な物を取り出したり消したり。僕はすぐにはまっちゃたんですよ。で、その日のうちに弟子入りを頼みに行ったんですよ。タネを教えてくれって。そしたら。」
 ギツは声色を変えた。
「『失礼な事を言うな!あれは奇術でも手品でも何でもない!れっきとした魔法じゃ!』って。それで追い返されたんですが……。そう言われるとどうしてもマスターしたくなったんですよ。その後はもう独学です。必死でしたよ。あの生意気な男を見返すためにもういろいろとやりましたもん。で、まあそれなりに形になったんですが……やっぱり父親は嫌がってましたね。商人の息子が魔法なんかどうするんだって。その後僕は商売の勉強って言ってさまざまな地域で魔法の勉強をしに行ったんです。おかげでだいぶ上達しました。」
「……なるほど。」
 スーズが一息入れてから納得した声を出した。
「で、ここにもその魔法の勉強をやりに来たってわけか。」
「いや。」
 そう言いながらギツの顔がわずかではあるが暗くなった。
「違うんですよ。言っても信じてくれないと思うけど……。」
 そこまで話すと声を小さくした。
「……魔王が、復活するんです。」
 ヨミナとスーズの顔がこわばった。
「この前ヴィルカナ城に行ったんです。親父のお供、みたいなかんじでついて行ったんですが……初めて城に行ったから浮かれてたんでしょう、迷っちゃったんですよ。そのうち地味な部屋に迷い込んだんです。」
「儀式の間のことね。」
「儀式の間?」
 ヨミナとスーズはさらに小さな声(ひそひそ話ぐらい)でささやきあった。
「私もお母さんに何回か連れられたことがあるわ。水鏡の巫女のお告げとかは全てそこで王に伝えられるの。」
「あの。」
 ギツはキョトンとした顔でヨミナとスーズを見ている。
「やっぱり信じられませんか。」
「あ、いや……。」
「私だってウソみたいな話だと思ってますよ。でももう少しだけ話を聞いていてください。その部屋から出ようとしたら誰かがやって来る気配がしたんです。私は慌てて隠れました。誰が来たと思います?最初のうちはわからなかったんですが王様だったんですよ。そして王様の後ろにもう一人。……水鏡の巫女って言うんですか?私はよく知らないんですが……なんでも様々な予言をしてるっていう偉い人らしいんですが……まあとにかくその二人が入ってきたんです。私はもう出るわけにはいきませんからじっと隠れていたんですね。その二人が話しだしたんですが……その内容というのが魔王が復活するってことなんです。私は冗談だと思ったんですがその二人の真剣な様子、そしてちらっとだけ見たあの王様の顔……何と言っていいのかとても辛そうで……。」
 ギツの顔は少し暗くなっている。
「その時思ったんです。今こそ私がこの魔法を役立てるときだって……まあ、私の他にも息子はいますから店の方は心配ないですから。」
「……ねえ。」
「……ええ。」
 ヨミナとスーズは目を合わせた。
「ねえ、今の話本当?」
「ええ。でも信じないでしょうけど。」
「あのさ、私達も魔王を倒しに行くって言ったら驚く?」
「え。」
 今度はギツの顔が驚いた。
「俺達もヴィルカナ城下町から来たんだ。それに手がかりも何も無いんだろ?」
「ま、まあ……そうだけど……。でもお二人も手がかりは無いんじゃあ……。」
「いえ。」
 ヨミナは軽くウインクをした。
「私、水鏡の巫女の義娘。アキヨミナって言うの。その魔王が復活するって予言私がしたんだから。」
「そして俺がスーズレップ。スーズレップ・ナルーハ・カィリジア。スーズって呼んでくれ。」
「え?え?」
 ギツの顔は明らかに戸惑っている。
「予言したって……まさか……。」
「もし巫女じゃなかったらあなたの話黙って聞いてないわよ。」
「……な……何だか……信じられないですね……。」
 ギツの顔は戸惑ったままである。
「あ。」
 ギツは何かを思い出した。
「カィリジアって言うと……この間弟の方が結婚相手をつれて来たって言うあの……貴族の……。」
「あ、ラデスの事な。結構美人だったな、あいつの相手。たしかキナスアさんとか言ったっけ?ま、あいつがいるから俺もこうやって旅に出る気になれたわけだし。」
「……あなた貴族だったの……。」
 ヨミナが目を丸くしている。
「私聞いていないわよ。」
「言ってませんから。」
 スーズは軽く笑った。
「で、どうするんです?」
 スーズはギツの方を向いた。
「一緒に倒しに行きませんか、魔王を。」

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