「……おい。起きろよ。」
「……ん……ああ?」
ギツは目を覚ました。いつのまにか眠っていたらしい。
「ぐっすり寝てたわよ、ギツ。」
スーズとヨミナがこっちを見て微笑んでいる。
「さあ、行こうか。」
スーズが叫んだ。
「絶対、倒そうぜ。」
「ああ。」
そう言いながらギツは先ほどの夢を思い出していた。
(そういや、結局あの後どうなったか聞いてないな。今聞くのもちょっとな。ま、いいっか。倒してからだな。)
そう思うとギツは表情を引き締めた。
「さあ、行きましょ。」
ヨミナが指さしたその方向には高く、そして不思議な雰囲気を保つジャラガザ山がそびえていた。
そこは張り詰めた空気が充満していた。自分の細胞全てが空気と一体化しているように張り詰めた空間だった。この山にある洞窟……つまり魔王が封印された箱が今現在あるはずの場所である。
三人はずっと黙っていた。ギツには二人が何を考えているのかはわからなかった。ただ感じ取れたのは言いようの無い恐怖と不安、そしてあてのない奇跡、しかし何故か信じられる心だけだった。
どれくらい進んだのかすでにわからなかった。ただ前に歩き続けただけだった。暗闇の中、歩き続けた。不意に奥に微かながら扉が見えた。
「……。」
「……。」
「……。」
三人は一言も喋らなかった。しかし心の中は一つだった。―行くしかない―ただそれだけだった。
「ようこそ、我が客人達よ。」
その部屋は異様な空間であった。窓は一つも無いはずだか魔法の力のためなのか外にいるのと同じぐらいの明るさであった。その部屋には多くの紋様―おそらく何かの魔方陣であろう―が刻み込まれていた。
その部屋の中央には一つの小箱が机の上に置いてあった。そしてそのそばには一人の老魔術師が座っていた。
三人は戸惑った。
「私達が何をしに来たかわかってないようね。」
ヨミナはまっすぐに老魔術師を見つめた。
「わかっておりますとも、ヨミナさん。」
「!」
ヨミナは顔がこわばった。
「何故、私の名前を知ってるのかしら?」
「これはご紹介が遅れました。わたくしはヨラハ、魔術師であります。」
「……そうか……。」
ギツが睨みながらつぶやいた。
「どっかで見た事あると思ってたら……あんただったのか。」
「そう、お久しぶりですなギツ君。」
「知り合いなのか、ギツ。」
「ああ、こいつだよ。俺が昔会った曲芸団のうさんくさいじじいは。」
「こいつが?」
「ああ。まだ生きてやがったか。」
「ええ、おかげさまで。」
ヨラハはからかうように返した。
「考えてみたらあなたもでしたね、私の魔術をバカにしたのは。」
そう言うとヨラハの眼が鋭くなった。
「……そうです。世間の奴らは私の魔術をペテンだ、インチキだとバカにしやがって。いいか、そうやってバカにした奴らを私は絶対に許さない。だから私はこの箱を手に入れた。この魔王が眠ってるこの箱をな!」
そう叫ぶとヨラハは箱をつかんだ。
「しかしだ。まだ封印はとかれてはおらん。」
「そ、そうよ!」
ヨミナが思わず叫んだ。
「封印を解く前にあなたを倒せばいいのよ!」
「おや?まだ気づいておられませんでしたか?わたくしはちっとも焦っておりませんよ。」
「私達ぐらいなら簡単に倒せるとでも言うの?」
「それだったらすぐにそれが勘違いだとわからせてやろうぜ、ヨミナ、ギツ。」
「ああ、望むところだ。」
「ひょひょひょひょひょ。」
ヨラハは突然笑い出した。
「まだおわかりになられてないようですね。」
「何なの?いったい。」
ヨミナはいらだっているようだった。
「封印を解く方法ですよ。わたくしがあなた方をわざわざここまでお入れしたのは何故だと思います?」
「何よ?はっきり言いなさいよ。」
ヨミナは誰の目にも明らかなほどいらだっていた。
「封印を解く方法というのがいけにえなんです。それも……水鏡の巫女の血がね。」
ヨミナの顔が目を見開いたまま固まった。
「そう、あなたですよヨミナさん。この水晶があなた方がやって来るのを教えてくれたんですよ。」
ヨラハの手にはいつのまにか水晶玉が握られている。
「嬉しいですよ。何もしないでいけにえがやって来るんですから。ΨΥΪΠΐάμιέΩά!」
ヨラハは何やら妖しい呪文を唱え始めた。するとヨミナの体が宙に浮いた。
「ぐっ……。」
ヨミナは身もだえする事ができないほど強い力でとらわれていた。
「ヨミナ!」
スーズはそう叫ぶとヨラハに飛びかかって行った。
「ぐはぁっ!!!」
しかし、何か―まるでヨラハの前に透明な壁があるかのような―に阻まれて床に打ち付けられた。
「ひょひょひょひょひょ。私にはむかっても仕方のない事ですよ。」
そう言うとヨラハは空中から突然ナイフを出した。
「てやっ!」
ギツはその一瞬のスキをつこうとかかっていこうとした。が、
「うわぁぁぁっっ!」
ギツもまた床に打ちつけられた。
「だから言ったでしょう。はむかっても仕方がない、と。ご安心ください。別にヨミナさんの命をすぐに奪ってしまうなんてことはしません。死ぬ時は魔王様の復活した後に三人仲良く死なせてあげますよ。」
そう言うとヨラハはすばやくヨミナの左腕を切りつけた。
「きゃあっ!」
ヨミナは身もだえした。
「さあ、これで……いよいよ……。」
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