ヨラハは両手をうやうやしく広げた。
「ΦΥΣβνιζΛΉΈοΟΞΏίέ!」
そしてヨラハの呪文の詠唱が響いた。
……そして。
「……?な、何故じゃ?何故何も起こらん!」
ヨラハの呪文の詠唱後時が止まったかに思えた。しかしそれは何も起こらなかった虚無の空間だったからである。
「ヨミナ!」
いつのまにか回復したスーズがヨミナの元に走り寄った。今度はヨラハの集中力が途切れたのか跳ね返される事はなかった。
「ヨミナ、しっかりしろ。」
「スーズ……。」
ヨミナは先程の傷以外ダメージは受けていないようだ。
「くそお……。」
ヨラハは眼の焦点があわなくなっていた。無論、激しい怒りと虚無感によってである。
「ヨミナ、大丈夫か?」
スーズより遅れて駆け寄ったギツはヨミナに回復呪文をかけた。
「さあ、後はお前を倒すだけだ。」
スーズは剣でヨラハを指した。
「ヨミナに傷をつけるとは……覚悟しろ!ヨラハ!」
しかし。突然部屋の中が暗くなった。
「!?」
スーズとヨミナはヨラハの方を睨んでいた。しかし、ギツだけは別の方角を見つめていた。
「どうやらこのじいさんの魔力も尽きたようだな。」
「違う!」
ギツが叫んだ。
「違う?」
「それ、どういう事なの?」
スーズとヨミナは顔色が変わった。
「誰か……別の誰かが……ここに向かっている。あのじじいよりもはるかに強い魔力を持った奴が……。」
その時、三人の頭には同じ事が浮かんだ。
「魔王様か!」
ヨラハが突然叫んだ。
「そうか、魔王様はやはりいらっしゃったのか。そうかそうか。やっぱり……ひょひょひょひょひょ。」
ギツの顔は固まっていた。ヨミナは自然とスーズに寄り添っていた。
そして……。
突然思い空気が部屋を包んだ。
扉が開いた。
扉の向こうから一人の老人―その体からは強いオーラが感じ取れた―が歩いてきた。
「誰だ?」
重く深い声がした。
「誰だ?箱を開けたのは?」
その声は威圧感があった。しかし、不思議とそれ以外の印象を受ける声であった。
「わ、わたくしです、魔王ロエジ様。」
ヨラハが擦り寄った。
「お会いできてうれしゅうございます、魔王ロエジ様。わたくし魔術師のヨラハと申します。」
老人、魔王ロエジはヨラハを睨んだ。
「そうか……貴様か……。」
そう言うとロエジは手の中に魔力をためた。
「消えろ。」
「え?」
ヨラハの顔が一瞬戸惑った。そして次の瞬間。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ヨラハが闇にのまれた。ロエジが手の中からだした闇に。
「……くそっ!」
その光景を黙って見ていたギツが叫んだ。ギツは叫ぶとロエジに魔力を飛ばそうとした。
が、
「待て。お前達は……何者だ?」
「ギツだ。ロエジ、お前を倒す!」
そう言ってギツは持てるだけの魔力を放った。しかし、ロエジはその魔力を吸収してしまった。
「くっ!」
ギツの魔力は今の一撃で尽きてしまっていた。
やられる……そうギツが覚悟した時だった。
「まあ待て、三人とも。せっかくだがわしは世界を征服しようとは考えておらんぞ。」
そう言いながらロエジは明るく笑った。
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