それから時は流れ、理香は高校を卒業し、四年制の大学へ進み、出版社のOLとなった。

「本居君、この件についてなんだが。」
「はい。」
 理香は編集長に呼ばれ会議室へと歩みを進めた。
 理香は出版社に勤めていた。彼女はとてもやりがいのある仕事に就けたことをとても嬉しく感じていた。しかし彼女は今現在恋人はいなかった。高校生から恋人は何人かいたのだが自然消滅してしまう事が多かった。高校からの理香の友人の日藤晃美からはよく「運命の恋人じゃなかったんだからいいじゃないの。」と慰められてきた。そのたび理香はどこかで聞いた事のあるセリフだと感じていた。
「……でこれについては話題のアーチストに話を聞くことにする事にしよう。理香君、それでいいかね?」
「あ、はい。」
 理香はついボンヤリしていた。彼女は今晩、合コンを控えていた。

「……ねえ、理香。」
「え?」
 合コン会場の女子トイレの中で日藤晃美がつぶやいた。
「今日の合コンもあんまりいいのいなかったわね。」
「……うん。」
「どうしたの理香、元気無いじゃない。」
「実は……今度の日曜お見合いがあるの。」
「本当?」
「うん、でも私気が進まないんだ。まだやりたい事あるし、ね。」
「そうなんだ。大変ね。もう結婚を考える年になっちゃったんだ。いつだっけ、理香が交通事故に遭ったのって。」
「高校2年の時よ。ごめんねあの時は。心配かけちゃって。」
「本当、心配したんだよ。私の事まで忘れちゃうし。」
「ごめんね、晃美。」
 そう言いながら理香は宙を仰いだ。

 それからニ日後の木曜日、理香は最近注目を集めているアーチストの所へと取材に訪れた。彼はイラストを中心に生命についての作品を発表しつづけている"進化アーチスト"と呼ばれている男、Mr.Lifeである。
「あの、取材に参りました本居理香と言います。」
 二分ほどして事務所の扉が開いた。
「あ、あなたが本居さん?どうも、Mr.Lifeです。」
 Mr.Lifeと名乗る青年は理香の想像とはまったくちがう男であった。"進化アーチスト"などと呼ばれているのだからさぞかしテングになっているのだろう、と思っていたのだがそれがどうしてなかなかの礼儀正しさであった。
 そして、何故だかはわからなかったが、理香は懐かしさを感じていた。
「あ、はじめまして。本居理香といいます。」
 それから一時間理香はインタビューをしていたのだがMr.Lifeがテングになっている素振りなどはまったく見せなかった。それどころか理香は徐々に彼のファンになっていったのである。
「それでは最後に今後、人はどうなっていくのでしょう?」
「……いつの時代でも精一杯生きていくだけですよ。それが"生きる"って事ですよ。」
「本日はお忙しい中ありがとうございました。……ふう。」
 そう言うと理香はテープレコーダーのスイッチを切った。
「本居さん。」
 Mr.Lifeは理香に微笑みかけた。
「今日は本当にありがとうございます。とても素敵な時を過ごさせていただきました。」
 理香はどきっとした。これが恋心だと気付かず。




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