その週の日曜日。理香はあるホテルの前にいた。彼女は今日お見合を断るつもりでいた。仕事もやりがいがあるのでまだまだ辞めたくはなかったからであり、そして先日会ったMr.Lifeについてますます知りたくなりこれからさらに忙しくなる事は目に見えていたからである。それに、結婚する気も無いのに付き合うのは相手に失礼である、と思ったからである。
「理香、こっち。」
 理香の母親である本居奈樹は理香を手招いた。
「こちら本居理香。私どもの娘です。そして理香、こちらがお見合相手の在宅イラストレーター、原田辰夫さんだ。」
 理香は思わず声をあげそうになった。理香の父親の本居達也が示した方には先日会ったばかりのMr.Lifeが座っていたのである。

「しかし驚きましたよ本居さん。まさか見合い相手があなただとは。」
 二人はホテルの敷地内にある日本庭園にいた。
「私こそ驚きましたよ……どうお呼びしましょうか。」
「原田でいいですよ。」
「じゃあ原田さん。知ってたんですか?」
「いや、僕も知らなかったんですよ。叔父さんからどうしてもって言うから仕方なく。本当は断るつもりだったんですが、あなたってわかったから断るのやめたんです。」
「え?それはどういう……きゃっ。」
 原田は理香の手を握った。
「僕と……お付き合いしていただけませんか。」

「え!本当!」
「こ、声が大きいよ晃美。」
 見合いの日から明けて月曜日。二人は会社の食堂にいた。
「で、それで結婚するの?」
「まだ早いって、だから。」
「で、どんな人?」
「え……在宅勤務のイラストレーター、かな。」
「いいなあー私も恋したーい。」
「すぐにいい人現われるって。」
 そう言いながら理香はまた原田辰夫の事を考えていた。


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