「おはよ。」
「ああ。」
敦子は重樹の隣りに座った。
「あ〜つこ♪」
あすみが敦子の肩をさわりながらやって来た。
「ねえねえ、でどうなの?」
「何がよあすみ。」
「あれ〜私が気づかないとでも思ってたのかな?お二人さん。」
そうあすみが言った時敦子と重樹は顔をあわせた。
「やっぱりなにかあったのね〜二人とも。だっておかしいと思ったのよ、東野君が昨日と同じ服だっていうのが。」
敦子は目線を重樹の服に動かした。たしかに朝彼女が見た服と同じである。
敦子は急に小さな声になって
「なんで着替えてないのよ。」
「だってしょうがないだろ、家に帰ってたら会社遅刻なんだよ。」
「だからってね……。」
「やっぱり。」
あすみが大きな声を出した。
「そういう関係なんだ。」
「どした?」
三人のところへ逢坂がやって来た。
「いやね、気づかない?東野君のかっこ。」
「ん?……ああー。」
逢坂は声をあげた。
「そう、東野君同じスーツ着てるのよ。」
「でも、それがどうかしたか?」
「問題なのは何故同じスーツなのかってことなのよね〜。」
「どういうことだよ?」
「私鈴卯ちゃんに今朝聞いたんだけど、東野君は昨日敦子を家まで送ってるのよねえ〜。」
「じゃあ、それってつまり。」
「そう、お・く・り・おおかみ〜ってことなのよ♪」
「おい、二人とも……あれ?」
いつのまにか重樹と敦子はいなくなっていた。
「おい。」
あすみと逢坂の背後から明らかに怒ってる声がした。
「お前ら、いつ仕事するんだ?」
水島課長が冷たい眼で二人を睨んでいた。
そのころ重樹と敦子は何気なく会社の外に出ていた。
「だから服着替えてこいっていったでしょ。」
「そんなこと言ったって。」
「あの……。」
二人の後ろにはいつのまにか鈴卯が立っていた。
「すいません、私が変な言い方したせいで。」
「いや、いいのよ。変な受け取りかたした方が悪いんだから。」
「そうそう、悪いのはあの二人なんだから。」
「でも、本当……すいませんでした。」
「うん、気にしなくていいからね。」
「じゃねっ。」
「それじゃ失礼します……。」
鈴卯はそう言うと社の中へと戻って行った。
「……いい子なんだけどね。」
「ああ、なんだかまだ……あの事から立ち直ってないのかな。」
「……うん。」
二人は少し浮かない顔になった。
二人が言う『あの事』とは数年前に起きた列車事故の事である。
彼女はこの事故で姉をなくしている。その当時の唯一の家族だった姉の死以来彼女は妙に人に気を使うようになったのである。
鈴卯の姉と敦子や重樹は仲が良く、彼女の死以来妹である鈴卯の事を何かと気にかけているのである。
「さてと。」
重樹が声を出した。
「俺はちょっと取材に行ってくる。」
「今日はどこだっけ?」
「えーと……Mr.Lifeの取材だな。」
「確か理香先輩と結婚した……。」
「そうそう、そのMr.Life。理香先輩元気なんだろうな。」
「ずいぶん騒がれたっけ。」
「あの時会社の雰囲気なんか変だったけど……先輩ががんばってくれたっけ。」
「ああ、涼夜先輩な。今は……。」
「今は独立して雑誌のデザイナーだっけ。この間もうちの表紙飾ってたわよ。」
「え、そうだっけ?」
「そうよ、ちゃんとS.Sekidukiって書いてあったじゃない。」
「そうだっけ?」
重樹はすっとぼけた顔になっている。
「そうよ。」
「……でもやっぱできる人は違うよな。」
「そう、誰かさんと違って。」
「その誰かってのは誰だ?」
「あ〜ら、わからない?」
「そっか……敦子、今度久しぶりに会おうよ、関月先輩に。」
「そうね、久しぶりに。」
「そうだな、みんなで。……あ、まずい遅れそうだ。じゃな。」
そう言うと重樹は走って行ってしまった。
「ふう。さ、私も行こうっと。」
そうつぶやくと重樹とは逆の方向へと歩いて行った。
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