しかしその頃。敦子の部屋の中では
「……なあ……。」
「……お願い……もう少しだけ……このまま……。」
重樹の腕の中に敦子がまどろんでいた。
「……なんだかなあ……。」
今から数分前二人がこの部屋に入ってきた時、玄関で重野が思いっきり転んだのだ。そして重樹がふと気づくと敦子が腕の中にいたのだ。
「……聞いてるか敦子。」
「……うん……。」
「あのさ……。」
重樹がいつもより真面目な顔になった。
「言いたい事があるんだけど……。」
敦子は何も言わない。
「重いからいいかげんどいてくれないか。」
「……バカ……。」
「バカってなぁ……。」
「……お願いだから……もう少しこのまま……。」
「ドラマじゃないんだから、さあ。」
「ドラマでもいい……今度は私の話聞いて……。」
「ん?何だいったい?」
敦子の口がかすかに動いた。
「え?何だって?聞こえなかったけど……。」
「……好き……。」
「え?」
敦子の顔は穏やかだった。
「お、おい、敦子。」
敦子は静かに寝息をたてはじめた。
「だからそこで寝るなよ。なあ、敦子起きろよ。」
敦子はしばらく起きそうにない。
「……こいつ……この酒癖だけはどうにかしないとな……。」
重樹は軽く笑顔になった。
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