女性はまだ眠っていた。寝息一つたてずに。まるで二度と目覚めない永遠の美しさを手にしたかのように。
「この子は……一体何なんだい?とにかくたたき起こすか。」
 魔女は女性の頭をこづいた。
「ん……んん……。ふにゃ……。」
 女性は眠そうに目を開けた。
「……ここは?」
 その女性の鈴のような声をしていた。
「起きたかい?あんた……一体誰だい?」
「……私?私はリゥルと言います。」
「へえー。で、あんた、なんでこんな所に?」
「私……逃げてきたんです。家から。」
「家ねえ……私はまたお城から逃げてきたのかと思ったよ。」
 魔女は意地悪っぽく静かに笑った。
「なんでわかったんですか!?」
 女性は思わず大声をあげた。
「ありゃ、本当にそうなのかい。」
「え?それどういう事ですか?」
「いやその……ひっかけてみたんだよ、あんたを。」
 女性の顔があっけにとられている。
「ひゃっはっは。あんた思いっきり騙されたねえ。あんた世間知らずだねえ。」
「……やっぱりわかりますか……。」
 女性の顔は暗くなった。
「私は……ヴィルカナ王国の王女、リゥル=エラロ=ヴィルカス。」
「ふーん、王女さまねえ。私は……魔女。」
「そうですか……はじめまして魔女さん。」
「……な。」
 魔女はあきれたように声を出した。
「あんたねえ。」
「はい。」
「『はい』じゃないよ。普通さー、魔女って聞いたら驚くとか怖がるとか……こう、あるだろ?」
「怖がるって……何故。」
 リゥルは真顔だった。
「何故って……ほら、怖い魔法使うやつとかさ、変な動物飼ってるとかさ、ひどいのになると悪魔の使いって言われてんだよ。」
「そんな……ひどい。」
「やっとわかったかい。」
 魔女はため息をつこうとした。が、
「そんなひどい噂が流れてるなんて……。」
「おい。」
 魔女は思わずずっこけそうになった。
「あんたねえ……本当世間知らずだねえ……。」
「そんな……。じゃあ変な動物はどこにいるんですか?」
 リゥルは少し強い口調になっていた。
「それは……いないけどさ……。」
「でしょ。やっぱりそれは単なる噂で本当は優しい方なんでしょ。」
 リゥルは得意げである。
「……本当、あんた変わってるよ。」
「お褒めいただき光栄です。」
「褒めてないっ。」
 魔女はもう苦笑いするしかなかった。
「まったく……あ、そういやあんた。」
「はい、何でしょうか。」
「何でこんなさびしい所に?王女なら……こんなところには一人で来ないよねえ。」
「私……城から逃げてきたんです。」
「逃げてきた?」
「はい。」
「逃げたって……何でだい?」
「それは……。」


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