ヴィルカス城の玉座。そこには王、ヴィルカス17世が腰掛けている。
「ん……なるほど。そういうことか。」
 王の前には大臣がひざまずいている
「ええ、あちらが言うには政略結婚をするならばこれ以上無益な戦いはしない、という事です。」
「それは好都合じゃな。」
 王は不敵に笑った。
「ええ。」
「これで我が王国も安泰と言うものじゃ。」
「ははっ。しかしどなたになさるのです?」
「うむ……三女のリゥルを嫁がせようと思っておる。」
「……。」
 それを聞くと大臣は黙ってしまった。
「どうした?大臣?」
「その……実は……。」
 大臣は口篭もっている。
「黙っておってはわからぬではないか。」
 王はいらついた様子である。
「ははっ。」
「して何じゃ。」
「はぁ……。実はリゥル様には想い人がおられるようでして……。」
「何?それは誰じゃ?」
「兵士のカデネスでございます。」
「ふむ……そやつはどうなのだ?」
「さあ……そこまでは私も知りませぬが……。」
「……のお大臣。」
 王の声は先ほどよりも低かった。
「はっ。」
「確か……滅びたはずの町に何か……悪霊が巣食っていると聞いたが?」
「たしかツォーの町ですが……。」
「ではその悪霊退治をその兵士にやらせるがよい。」
「ははっ。」
「その後刺客をさしむけるがよい。」
「つまり……悪霊退治と称して亡き者にしようと……。」
「そういうことじゃ。」
 王は不気味な笑みを浮かべている。
 しかし、その会話を聞いていた男がいる。
 その男はその晩の王の間近辺の夜警に当たっていた兵士である。その男は複雑な―どう言い表したらいいのかわからないほど真面目な―表情をしていた。
 その男はそのまま王と大臣の会話を聞いていた。
 その男の名は、カデネス。


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