その翌晩、カデネスは城の庭にある倉庫の中に立っていた。倉庫の中は月光で妖しい明るさである。
 月光が雲で隠れた時、その倉庫に一人の女性が入ってきた。
「ゴメン、遅れた。」
 その女性は小さな―まるで鈴のような―声でカデネスに謝った。
「……姫、私はあなたに別れを告げなければなりません。」
「どういうこと?」
 女性の声は動揺していた。
「私は……今日一つの命令を受けました。ツォーの悪霊を退治せよと。」
「……それが何故私に別れを告げなければならないの?」
「その命令は建て前です。本当のねらいは別にあります。」
「本当の……ねらい?」
「はい。私を王は殺すつもりなのです。」
「何故!?」
 女性の声は驚嘆していた。
「私が……あなたと恋仲になっては困るのでしょう。」
「何故?何故それが……。」
「……一介の兵士が姫と結ばれるなんてことがあっては……。」
「そんなの関係無いわ。そんな事言ったら私のおじい様はどうなるの?」
「姫……私は王に忠誠を誓っています。王からの命令は絶対なのです。」
「そんな……。」
「……早く私の事はお忘れください。では。」
 そう言うとカデネスはその場から走り去った。その眼にはいつのまにか涙が流れていた。しかし、それをその場に残されたリゥルが見るはずも無いのである。


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