「……なあ、お姫様よぉ。」
魔女はそれまで黙って聞いていたが突然話をさえぎった。
「それが何でこんなところに来ちまったんだい?」
「私は全てを捨てるつもりでした。私は王女の身分なんかどうでもいい。大事なのは彼だったんです。私は密かに彼の後を追いました。でも道に迷ってしまい……。」
「ふーん。」
魔女は少しため息をついた。
「あのさ……あんた全てを捨てるって言ったよね。それはどうだろうかね?」
「え?」
「いやね、無理だと思うよ。全てを捨てるって。」
「そんなことは……。」
「いったいどうやって暮らしていくんだい?まず相手はそれをあまり喜ばないんじゃないかねえ……。」
「そんなことはありません!」
思わずリゥルは声が大きくなった。
「王に申し訳が立たないとか言ってあんたを説得するだろうよ。それに……。」
「それに?」
「多分今ごろその兵士には指名手配が出てるよ。王女をさらった悪人としてね。」
「!」
王女はもう何も言い返す事はできなかった。
その日から一週間以上がたった。しかしまだリゥルは魔女の城にとどまっていた。
リゥルが無理やり魔女に頼み込んだのである。
リゥルの様子は最初どこかしら暗かったのだが最近はけっこう明るくなってきているようである。しかし、そんなリゥルの様子を魔女は不思議がっていた。
「なあ……あんた。」
ある日、魔女はいつものように本を読んでいた。リゥルはそこに紅茶を持ってきた。そこで魔女は尋ねてみることにしたのだ。
「いったいいつまでここにいるんだい?もう……一週間以上たったよ。」
「……。」
リゥルは口ごもっている。
「あんた……人生投げてないかい?」
「……わかり……ますか……。」
リゥルの声は細々とした声だった。
「……あんたねえ。親もショックだと思うよ。」
「そんなこと……あるはずが……。」
「……たしかにあんたも辛いんだろうがこんなところにいちゃダメだよ。こんな、寂しいところにさ。」
「じゃあなんであなたはここに一人でいるんですか?」
「へ?」
思わず魔女は目を丸くした。予想外の反撃である。
「こんな寂しいところって言うのなら……あなたは何故……。」
「……。」
魔女はしばらく黙っていた。が、
「……ちょっとおいで。」
そう言うと魔女は部屋から出ていった。
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