二人の勇者のうちの一人、ディングは城のテラスに一人でいた。彼は遠い景色を見つめていた。
「おい、何やってんだ?ディング?」
もう一人の勇者シェジックがディングに声をかけてきた。
「おいおい主役のお前がいなくってどうするんだよ、俺一人じゃ相手しきれないんだぞ。早くお前もこっちに来いよ。」
「ん?ああ。」
ディングは気乗りせずに答えた。
「いやーしっかしまいったなー、ディング。俺らはこの国を救った勇者なんだぜ。それにさっきウィルナ姫が俺と結婚したい、だなんで言うんだぜ。まいっちゃうよなあ、ディング。……ディング?」
シェジックはディングの様子がいつもと違う事に気付いた。彼はディングのパートナーであると同時に一番の親友であったからこそディングの様子のおかしさに気付いたのだ。
ディングとシェジックは生まれた時から本当の兄弟のように仲良く育ってきた。いつも調子よく生きてきたのはシェジックの方でありディングはまっすぐ生きてきた男である。性格的には全く逆の二人であったが、だからなのか二人は良き親友、良きライバルとして育ってきたのである。
シェジックは昔からディングにもう少し気楽に生きたらいいのに、と思う事がしょっちゅうあった。ディングはディングでシェジックにもう少しまじめに生きろ、と思っていた。
シェジックはディングを友に持てた事をとても喜ばしく思っている。そして一番ディングの事をわかっているのは自分だと思っている。だからこそこの日のディングは何か重大なことを考えているようにシェジックは感じ取れた。
「……ディング。一体どうしたんだ?」
「シェジック。実は一つ気になっていることがあるんだ。」
「一体なんだ?」
「セダーの事だよ。」
「ああ、あれな。」
シェジックはため息をついた。
「何が気になるんだよ。セダーはもう世界征服やめるって言ってるんだし。」
「でも。」
ディングは目線を下に向けた。
「何か……企んでいると思わないか?」
「思わないね。」
シェジックは間髪入れずに答えた。
「そんなことよりディング。パーティーに戻ろう。皆待ってるぜ。」
「……先に……行っててくれないか。」
「ああ。その代わり早く来いよ。」
そう言ってシェジックはまた中に入っていった。
ディングはまた遠くの景色に目をやった。夏の夜は早く明けるためか、東の空が白々と明るくなっていくところだった。
翌日の朝、ディングの姿はヴィルカナ王国の何処にもいなかった。
シェジックをはじめ王国総出で探したが結局見つからなかった。後にシェジックはウィルナ姫と結婚しこの国の15代目の王となるのだがそれはまた別の話である。
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