近くにクルブル山がそびえるクルブルケイハはオレゴルから南に向かった所にある四聖地の一つである。ここでは軍神を奉っており、そのためか武術の道を志す若者をよく目にする町である。
この町にディングが辿り着いた頃には実りの秋を迎えている頃であった。
この町に辿り着いた時からディングは嫌な予感がしていた。この町にいる猛者達をセダーは配下にしようと企んでいるのでは……。そう思いながらクルブルケイハを歩きまわった。
しかし、何一つ有力な手がかりは得られなかった。ディングは一日中歩きまわったため疲労は限界に達しようとしていた。ディングは無理をせずに休む事にした。こういう場合安宿に泊まるよりは多少高くても安全であろうと思われる宿に泊まるべきだ、と考えたディングは大通りに面したレベル的には中の上ほどの宿に泊まることにした。
部屋に案内されたディングはすぐにベッドに倒れこんでしまった。
「ディング、ディング。起きろよ。」
ディングが目を覚ますとそこにはシェジックが座っていた。
「ディング、ほら行こうぜ。皆待ってるぞ。」
「え?」
ディングが起き上がるとヴィルカナ城が見えた。ディングは自分が草の上で寝ているのに気付いた。
「ほら、寝ぼけてんのか?俺達はソドースを倒して世界を平和にしてお城のパーティーに呼ばれてんだろ?」
シェジックはディングの手を引っ張った。
「お、おい。」
「まあ、いい。先に行ってるぞ。」
そう言うとシェジックはディングの手を離して先に行ってしまった。
「ちょっと待ってくれよ。」
ディングがそう呼びかけるとシェジックが振り返った。
「ディング紹介するよ。こちらがヴィルカナ王国王女のウィルナ姫。今度……俺達結婚するんだ。」
いつのまにかシェジックは一人の女性、ウィルナ姫と手を繋いでいた。
「結婚式には来てくれよな。」
ディングは笑顔で二人を見つめた。ふと気付くとまわりには王さまや兵士、庶民や顔なじみの人達が楽しそうに踊っていた。いつのまにかディングはお城の大広間の中にいた。
「……でも何か一つ……。」
ディングがそう口を開いた時だった。突如大きな轟音とともに雷が落ちてきた。そのためシェジックやウィルナ姫、そのほかの様々な人々に直撃し苦しそうにもがいたり、全く動かなくなってしまった。
「!?」
ディングは最初何が起こったのかわからなかった。しかし次の瞬間、大きな笑い声が響いてきた。
「セダー?セダーなのか!」
ディングは誰の仕業でこんな事になったのか思い出した。
「セダー!出てこい!」
ディングは叫んでいた。いつまでも叫びつづけていた。
「うわっ!」
ディングは叫び声とともにベッドから跳ね起きた。
「……夢か……。」
ディングは安堵のため息をついた。
「……やっぱり、セダーが何をしているのか気になる。」
そうディングは呟いた。
「……そういや、セダーってどんな顔してんだ?」
ディングは今頃になってそんな事に気付いた自分の愚かさを悔やんだ。
「魔王だから……一番敵の本拠地の奥にいると思っていたから……気にしてなかったけど……いったい……。」
ディングは頭を抱え込んでしまった。
結局ディングはいったんオレゴルに戻ることにした。
ディングは足早に階段を降り受付に向かった。
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「え、ええ。」
ディングの起きる時間が遅かったのか、昨日けっこう多くいた客が一人も見当たらない。
「……私で最後なんですかね?」
ディングは何気なく訪ねた。
「ええ、そうですね。えーとディング様でしたね。ありがとうございました。よろしかったらこの旅日記に何か一言書いてください。」
そう言うと受付は一冊のノートを取り出した。
この旅日記というのは宿に泊まった人間がその旅の思い出を書きこめるように用意されているサービスである。はじめは何処かの小さな宿屋で始まったサービスだが、今では世界中の宿屋でおこなわれているサービスである。
「いろいろな人が書いてるんですね。」
ディングは何気なくページをめくり始めた。
「彼と来ました……自分を見つめなおす旅……へえー。……ん!」
順調にページをめくっていたディングの手が止まった。手が止まったページにはこう書いてある。
『やらねばならない旅です。セダー。』
ディングは驚いた。
「すいません、このセダーっていう人……何処から来たって言ってました?」
「お知り合いか何かですか?たしかオレゴルから来っていってましたよ。」
「ど、どんな顔してました?」
ディングは興奮してきた。
「若くて……メガネをかけた……ちょっと痩せ型の……あ、そうそう額から右頬にかけて傷がありましたね。」
ディングの胸は高鳴っていた。まさか同じ宿屋に泊まっていたとは。
「しかしなんですね、セダーって名前魔王と同じじゃないですか。このセダーさんもけっこう迷惑したんでしょうね。」
ディングはそれが魔王だと言いたいのを我慢して一つの質問をした。
「……何処へ行くって……言ってました?」
受付はアゴをなでながら答えた。
「確か……ノピャールへ行くって言ってましたっけかね。なんでも四聖地巡りをしてるって。」
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