ノピャールは四聖地中最も人口の多い町である。位置的にはクルブルケイハからさらに南へ進んだ海岸に面した場所にある。ここには英知の神が奉られており世界中から様々な人が訪れる土地である。また貿易の拠点としても知られている町である。ここからもう一つの聖地、アミジャーカンへと連絡船が出ている町である。
ディングがノピャールに辿り着いたのは秋が去り、冬が過ぎ、季節は春へと移り変わっていた頃であった。
ディングは休む間もなくセダーを探すために聞きこみをしだした。
しかし、セダーの居場所はあっさり見つかった。酒場にいるのを見た人がたくさんいたのだ。ディングはその酒場へ向かう事にした。
「いらっしゃいませ。」
ディングが酒場に入ると給仕娘が出迎えた。
「何になさいますか?」
ディングがひとまず席につくと地ビールを頼んだ。
「どうぞ。」
地ビールが来る頃にはセダーが何処に座っているか見つける事ができた。
セダーは一人で食事をとっていた。
ディングはセダーの様子を観察する事にした。
本来なら今すぐにでもセダーと戦いたい所だがここで戦うと他の人を巻き込んでしまう。何かいい手は無いか……。そうディングは考え始めた。
それから数時間後。ディングは一人町の西側にある丘の上に来ていた。
ディングはその後セダーが泊まっている宿を突き止め宿の主人にこの丘に来るようにという伝言をセダーに伝えて欲しいと頼んだのだ。
彼は言いようの無い緊張感を感じていた。いよいよあのセダーと向き合う。そして奴と戦わなくてはならない。もしここで自分が負けたりしたら世界は終わりだ。友を守るために。家族を守るために。そして世界を守るために。ディングは深呼吸をした。
その時だった。町の方から一つの明かりがこちらに向かっている。ディングは剣の鞘に手をあてた。
「セダーか?」
ディングは明かりに向かって問いかけた。
「そうだ。一体お前は誰だ?」
明かりから声がする。いや、明かりを持った顔に大きな傷のある男、セダーが答えた。
「俺は勇者ディング。」
ディングは精一杯の勇気を振り絞って答えた。
「……そうか……お前か……アスキナを倒したのは……。」
セダーは淡々と声を出している。
「そして、ソドースやマキジナン、デグローグを倒したのも。」
「……そして私も倒そうというのか……?」
「そうだ。」
ディングは剣を強く握り締めた。
「勇者ディングよ。私を倒すのはもう少し待ってくれないかね?」
「何故だ。」
ディングは緊張の糸を切らないようにまっすぐセダーを睨んでいる。しかしディングは何かしらの違和感を感じていた。
(……魔王にしては……覇気が無いな。一体どういうことだ?)
「頼む、ディング。私はまだやらねばならぬ事がある。」
ディングはこの言葉に反応した。
「世界征服の準備か!」
ディングはそう叫ぶとセダーに斬りかかった。
「くっ!」
セダーはその剣をかわした。
「やはり口で言ってもダメなようだな。仕方あるまい。死んでもらうぞ、勇者ディング!」
セダーはそう言うと手の中に魔力をため始めた。
ディングは剣を構えなおした。
ディングは傷を作りながら息が乱れていた。ディングの剣の先はセダーの胸元に刺さっていた。セダーは悲しそうな表情を浮かべている。
「……はあっ。」
ディングは剣をセダーから抜いた。セダーはゆっくりと倒れた。
「……ディングよ。最後の頼みだ。これを……。」
そう言うとセダーは胸元からペンダントを取り出した。
「……これは一体……。」
「こ……これを……。これをアミジャーカンの神殿に捧げて欲しい。私は……このために……四聖地を……。ΙΨΖΕΘΓΒΥ?ΛΛ??νΝ?ΩΙ!」
セダーは最後に何やら呪文を唱え始めた。その途端に闇がセダーの体から溢れ出た。
「!?」
ディングはそれを防ごうとしたが、闇に飲みこまれていった……。
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