……そこはオレゴルの町の中、セダーの家の中……。
 セダーは真っ暗な部屋の中で笑顔を浮かべていた。
「ついに……ついに私はやったぞ……魔物を呼び出す方法を見つけたんだ!これで……これで世界の奴らを見返す事ができる。」
 そう呟くとセダーは家を出ていく準備をし始めた。

 ……そこは封印された城の中……。
 魔王の間には5人の若者がいた。
「さあ、お前達。世界の奴等に復讐をする時がきた。よいな。」
 玉座に座るセダーがそう残りの四人に命令した。
「まかせろ。」
 光り輝く剣を持つ青年、ソドースはそう答えるとその部屋から消えた。
「お任せあれ。」
 黒いローブに身を包んだ男、マキジナンも部屋から消えた。
「行ってくるぜ。」
 毒を塗ったナイフを見つめる男、デグローグも部屋から消えた。
「それでは私も。」
 赤い髪の女、アスキナも部屋を出ていこうとした。
「待て、アスキナ。」
 セダーはそれを呼びとめた。
「アスキナ、私の事をどう思う?」
「とても優秀な魔術師であり、私達の指導者です。」
「……そうか……。」
「では私はこれで。」
「待て!」
 セダーはアスキナの手をつかんだ。
「……アスキナ。こんな時にこんな事を言うのではないというのはわかっている。」
「セダー様?」
 アスキナは驚いた顔でセダーを見つめている。
「私は君の事が好きだ、アスキナ。」

 ……そこは城にあるセダーの寝室……。
 そこには二人の男女が寄り添っていた。
「セダー様……。」
 女が呟き始めた。
「どうした?アスキナ?」
 男が応えた。
「……このように……お逢いできるのも……最期かもしれません……。」
「最後?どういう事だ?」
 セダーはアスキナの顔を見つめた。その顔にはなんとも言えぬ寂しさがあらわれていた。
「私は明日勇者達を倒しに行きます。」
「アスキナ……!」
 アスキナの顔は何かしらの覚悟を決めたようであった。
「お忘れですか?私達は世界に対し復讐しなければならないのですよ。」
「……しかし……何もお前が……ソドースにでも行かせれば……。」
「いえ、あの男ではダメです。まあ、剣の腕は確かでしょう。でも作戦事、頭を使うのはあまり……。」
「しかし!」
「いえ、行かなければなりません。そうだ、これを……。」
 そう言うとアスキナは首もとからペンダントを外した。
「セダー様、このペンダントをお渡しします。これを私だと思って……大切に……。」
「アスキナ……。」
 セダーはそれ以上言う事ができなかった。アスキナの目に光るものを見つけたからである。

 ……そこは何処かわからない闇の中……。
「セダー様。」
 何処からか使い魔が現われた。
「なんだ。」
 セダーは何かに座っていた。
「ご報告申し上げます。」
 セダーは何かしらの嫌な予感がした。
「アスキナ様がやられました。」
「……そうか……。アスキナが……わかった。下がってくれ。」
「は。」
 使い魔は何処かへ消えていった。
「……アスキナ……。」
 セダーは震えだした。
「アスキナ……私は確かに世界の奴等を見返したかった。しかし、だ。それは世界を征服する事だったのか?私は……今頃になって気がついたのかもしれん。アスキナ、私は……君の事を……本当に……。」
 後は声にならなかった。ただ、慟哭のみが響いていた。

 ……そこはオレゴルの町のセダーの家……。
 セダーが一人家の中にいた。もはや魔王だった頃の威厳は無い。
「アスキナ。」
 セダーは一人呟き出した。
「私は魔王をやめた。私が求めていたのは世界などではなかった。今から私は旅に出ようと思う。まず、四聖地を廻って君の冥福を祈ることにする。そこから先のことは考えていない。ひょっとしたら君の後を追うかもしれないけどね。」
 そしてセダーは旅に出た。


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