そしてその晩。
「……。」
 ラデスはベッドに寝転がっていたがなかなか眠れなかった。眼を閉じるとキナスアの顔が浮かんできた。
「……ダメだ、寝れねえ。」
 そう言うと起きあがった。
「もう、寝たのかな。」
 ラデスは窓の外を見た。外は静けさが支配している。こんな森の中にキナスアを襲った盗賊がいるとは思えないほど、静かで美しい森だった。

 結局、ラデスは眠りにつく事ができなかった。ラデスはまた先ほどのリビングへと向かった。
「こんな時間じゃ二人とも起きてないだろうがな。」
 そう小声で呟きながら進んでいった。

「きゃっ。」
 ラデスがリビングへ行くとなんとキナスアが一人で椅子に座っていた。
「まだ……起きてらしたんですか。」
 ラデスはそう言うと椅子に座った。
「何だか眠れなくって……。あなたは?ラデスさん。」
「俺も……眠れなくて。」
「本当?私の寝顔でものぞきに行こうとしてたんじゃないの?」
 キナスアはそう言いながら微笑んだ。
「そ、そんなわけないじゃないですか。」
 と、口では否定しつつ心の中では
(やっぱりかわいいな、彼女。)
なんて事を思っていた。
「ふふっ。冗談よ。ところで……。」
 キナスアはいたずらっぽく笑いながら
「この森ってなんか不思議だと思いません?」
「え?」
「だって私がここでみんなとはぐれたのは誰かが招いていると思ったからだし、あのおじいさんがこの森に住むようになったのは森が招いているような気がしたからだし、それにあなたも。」
「何故かこの森に引き寄せられた……。」
 ラデスは驚いた。三人とも何かはっきりした理由がある訳でもないのにこの森を訪れたのだ。
「ね、不思議でしょう?」
「気付かなかった……。」
 ラデスは少しまじめな顔になった。
「……ひょっとしてこの森には何か不思議な力が……。」
 キナスアはラデスの手を握った。そして、
「そう、森って不思議な力があるんですよ。昔私が立ち寄った村で聞いた話なんですが、悪政王と呼ばれる王が森の中で死んだという話があるんです。その時は何故王が死んだのか未だにわからないそうですが噂では森が持つ不思議な魔力で悪人を閉じ込め殺してしまうっていう伝説があるそうなんですよ。」
 ラデスはキナスアの話に聞き入っていた。
「……そんな伝説が……。」
「それに知ってます?この森の名前の由来?この森は昔世界を救ったといわれる勇者ディングの名前を取ったものなんですよ。ひょっとしたら勇者ディングが私達を導かせてくれたのかも。……聞いてます?」
「え、ああ、聞いてますよ。」
 ラデスは手を握られたので、ついキナスアの笑顔に見とれてしまった。
「本当かしら。でも、本当不思議よね。」
「そうですね。……あの。」
「何?」
「あ、いや何でもないです。……もう寝ましょうか。」
 ラデスは自分の気持ちをキナスアに伝える事ができなかった。

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