そして翌朝。
「本当にお世話になりました。」
 ラデスは一足先にグニッドの家を出る事にした。
「また、会いましょうね。」
 キナスアはラデスにそう言って微笑んだ。
「キナスアさんはどうするんですか。」
「私?私は……もうちょっとしてからヴィルカナ城へ行ってみるわ。多分城下町に仲間がいるはずだから。」
 ラデスは結局キナスアに自分の思いを打ち明ける事ができなかった。
「また来いよ。」
 グニッドはそこまで言うとラデスの首に手をまわして自分に近づけた。そして小声で、
「……ところでキナスアさんに好きって言ったのか?」
「な、何言ってんですか。」
 ラデスはそう言いながらも声が裏返った。
「まあいい。」
 そう言うとグニッドはラデスから離れた。
「とにかく気をつけてな。……そういやお前さん、これからどこへ?」
「一度家に帰ってみようかなと。」
「そうか……まあ、それがいいな。」
 そう言うとグニッドは微笑んだ。
「それでは。」

 森の中を歩きながらラデスは自らの勇気の無さを責めた。
(なんで告白しなかったんだろう、俺。)
 森の中を歩きながらキナスアの事ばかり考えていた。ラデスは何故か前世から出会うべきだったのかも、なんて事を感じていた。
「……。」
 ラデスは突然立ち止まった。そしてきた道を引き返していった。

「あれ?お前さん家に帰ったんじゃなかったのか?」
 グニッドはラデスが小屋に帰ってきたのを見て驚いた。
「……グニッドじいさん。俺、やっぱりキナスアに言うよ。好きって事。」
「ほう。」
 グニッドはにやっと笑いながら、
「そうか、ついに決心したか。だが、ここにはもう彼女はおらんよ。もうこっから太陽の方角に向かって出発したからな。早く追っかけてやれ、ここで言わないと二度と会う事もできんぞ。」

 ラデスは太陽の方角へ走っていった。だが、突然女性の悲鳴が聞こえた。
「!?……キナスア!?」
 ラデスはさらに足を速めた。
(……考えてみたら彼女は昨日盗賊に襲われたって言ってた。盗賊がそう簡単に諦めるだろうか?……しまった……油断してた……!)
 ラデスは声のほうへと急いだ。

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